幻影 ※レイラ
アレクセイは、諦めたように口を開いた。
「……あのドラゴンは、実在していません」
やはり。——「でしょうね」私は頷いた。アレクセイを守護するというドラゴンは、幻だったのだ。
「どうして、そんなことを?」あえて問う。理由は、だいたい察しがついていた。
「帝国を治めるために、必要だったのです」
帝国の後継者争い。マルクやニコライのように、皇帝の妻の出自を理由に後継者の座を外され、皇城から半ば追放される形で追い出された。
そして次は、アレクセイの番だった——が、皇帝の急逝により、その計画は一時白紙に戻された。
「皇帝候補は三人。第一皇子は、原因不明の病で床に伏しており、第二皇子は、貴国東部のオルフィン侯爵の影の援助を受け、最有力とされていました。末子である私は、大した後ろ盾もなく……」
「それなのに、貴方は皇帝になった」
「はい。私はすでに極東の地に住まいを移され、そこで異民族の族長の養子に出されるはずでした」
だが、皇帝崩御の報せが届く。野心家であったその“父”となる予定の男は、これを好機と捉えた。
「これを機に独立してもいい。だが、それではつまらん。共和国を敵に回せば、すぐに鎮圧されてしまうだろう」
ならば——と、皇帝レースにアレクセイを送り込む決断をした。
他の異民族、不遇を囲われていた軍人たち、魔術師たちに声をかけた。帝国の属国であるナーシル砂海連邦——アルクの故郷でもある——も、兵を出してくれた。とはいえ、それぞれは弱小勢力に過ぎない。
その力だけでは、大衆の支持を得られない。アレクセイには、何か決定的な“象徴”が必要だった。そうして導き出されたのが、ドラゴンの幻影だった。
「それほどの大魔法、よく用意できましたね」
「大したことではありません。魔術師が、ただ幻影を創り出しただけです。時間と場所の制約があるとは言われましたが……」
「そうですか。でも、その魔術師。是非とも、会わせて下さい」肩に乗っているドラゴンが眠たげだ。
怪しい。アレクセイ自身、その魔術師の素性をよく知らないというのだから。
「それで、極東からここまで攻め上がったんですね」
「はい。それからは、ご存知の通りです」
彼自身の才覚もあったのだろう。だが、それにしても奇跡的な連戦連勝だった。第二皇子を破り、ついには帝都を手中に収め、皇帝となった。
「アレクセイ。貴方の敵が、どこにいるか……知っていますね」
「……はい。ですが——」
「私がここにいるのは、貴方に協力するためです。それが、この世界にとって最適解だから」
私は冷たく言い放った。
「もし違えば——私は貴方を選ばない」
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