皇城 ※レイラ
レイラ視点
皇帝が私に会いに来たのは、リドリーたちが旅立った後だった。
「申し訳ありません。ようやく監視を排除できました」
アレクセイは、部下を廊下に待たせて一人、私の部屋を訪れた。
「いえ、こちらはのんびりさせてもらっています」私は柔らかく微笑む。
「体調を崩されていたと聞いています。それと……お戻りいただいて構わない、と何度かお伝えしたのですが、届いていませんでしたか?」
それとなく届いていた暗号――私はすべて黙殺した。理由は単純。この場所に私が留まることが、今は何より重要だから。敵の襲撃時期はある程度予測できているが、それが確実とは言い切れない。
「そうでしたか。気づきませんでした」私は涼しい顔で応じる。
「……なるほど。何か、お考えがあるのですね。実は、相談がありまして。暗殺者と思しき者は、皇城からは一掃しました。ですが、私を皇帝として認めぬ勢力は、依然として国内に多数存在します」
彼は暗殺未遂を自作自演し、それを口実に動いた。だがその演出は、かえって本物の暗殺者たちを警戒させ、発見を困難にしてしまった。
さらに冤罪で捕らえた大臣たちの中には、本来敵とは言えぬ者も多く含まれていた。その余波で、傍観していた中立勢力まで敵に回すことになったらしい。
おそらく、過去に私が行った作戦を真似たのだろう。しかし彼の周囲は、旧政権から遠ざけられていた異民族や新興派ばかり。諜報を担える人材は、決定的に不足していた。
「そうですね。宗教勢力も、地方の豪族も、中央貴族も……いずれも難しい立場です」
私は、モルガンに帝国貴族の色分けを、レジーナに皇城内部の調査を任せていた。すでに勢力図はほぼ完成している。私はそれを手渡した。
アレクセイは、地図に釘付けになったまま、じっと見入る。
「……私はまだまだ未熟ですね」
彼はゆっくりと目を見開き、そして納得したように小さく頷いた。
「ですから、郊外にレイラ様の騎士団を駐留させているのですね?」
それだけではない。本当の厄災は、これからこの都市を襲う。厄災に打ち勝つにはあと一枚カードが足りない。
「今後どう動くべきか、話し合いましょう。その前に、ひとつだけ……聞きたいことがあります」
「何でしょう? どうぞ、何なりと」
「――あなたの、ドラゴンについてです」
その瞬間、アレクセイの顔色が目に見えて変わった。沈んだ空気が、ふっと重くなる。
私は、静かにその変化を見逃さなかった。
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