魔法の檻
ダークウェルが杖を振ると、魔法が空間に螺旋を描き、俺の周囲を包み込んだ。
瞬く間に、金網のような檻が形を成す。冷たい魔力が肌を撫で、檻はじわじわと内側へ迫ってくる。
俺は剣を構え、前進する。
一歩ごとに檻の圧力が増すが、迷わず刃を振るった。
鋭い閃光が檻を断ち、魔力の束が音もなく崩れ落ちる。
だが、すぐさま二重の檻が現れ、また俺を飲み込もうとしてきた。
ダークウェルは、嗤うようにそれをすり抜け、まっすぐにオロチへと向かう。
ノクスが飛び込むように魔法を放つ。
紫電が閃き、鋭い魔弾が敵を襲う。しかし、ダークウェルはすぐに防御障壁を展開した。
……が、それも長くはもたなかった。
ノクスの放った魔弾は、重ね掛けの術式を突き破り、連続で命中する。
「くそっ、くそっ、くそっ!」
防御を再構築するが、次の瞬間にはまた砕け散る。
「どうじゃ? わしの魔法は、よう効くじゃろう?」
ノクスが嗤うように言い放つ。
その隙に迫った二重の檻を、俺は魔力を纏わせた剣で斬り裂いた。
呆気なく崩れる檻。その感触に、思わず眉をひそめる。
「あれ……?」
確かに二重に見えていたが、手応えは驚くほど軽い。
崩れた魔力は風に紛れて消え、代わりに現れたのは四重の檻――。
ただし、今度は色が妙に淡い。
「こけおどしか」
口元に笑みが浮かぶ。敵の術式にわずかに読み勝てた、その優越感。
余裕を取り戻しつつ、俺はノクスとダークウェルの交戦に再び視線を向けた。
魔法防御が追いつかなくなったダークウェルは、もはや肉体を動かして回避するしかない。
だが、鋭い魔弾が肩をかすめた。
マントが焼け落ち、下から露わになったのは――黒ずんだ肉体。
そして、そこから滲み出る、滑るような黒い血液。
……見覚えがある。
「あれは……リマスの中にいたスライムと、同じ……?」
リマスに潜んでいたスライムは、ダークウェルの手で姿を変えられていたはず。
じゃあ、今、目の前にいるこいつは……? 何だ……?
「ダークウェルじゃなかったのか……?」
喉の奥が冷える。俺は、知らず声を漏らしていた。
「お前は……一体、何者だ」
言葉に応える前に、奴の体がわずかに震える。
その体から、黒いスライムが音もなく這い出し、砂地へと逃げ込んだ。
残されたのは、血も肉も干からびた、ただの殻――。
「それなりの魔術師に見えたんだがな……」
迫ってきた檻を一蹴して弾き飛ばし、俺は砂を注視する。
このまま逃げられて、他の誰かに憑かれては厄介だ。
その時、舞い上がった砂が不自然に渦を巻いた。
スライムだ――!
奴は地中から這い出すと、するりと滑って、最後のオロチの口の中へと入り込んだ。
「……まあ、いい。その方が、わかりやすい」
俺は走り出し、跳躍一閃。
オロチの巨大な首に飛びつく。指に力を込める。
「――本体を、引きずり出してやる」
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