激戦 3
八つ首が二体、俺とノクスに向かって立ちはだかる。
それぞれの十六の眼が、異なる魔力の光を宿し、獣じみた殺気を放ちながら俺たちを睨みつける。
「俺が守る。お前は片っ端から倒していけ!」
「このままだと、われは魔力切れしてしまう……」
ノクスが息を呑み、不安げに告げる。
「大丈夫だ。俺の魔力を分ける。どうだ?」
彼女はきゅっと眉を寄せ、鋭く頷いた。
「なら問題ないな。お前の無尽蔵の魔力、思いきり使わせてもらう!」
その瞬間、オロチたちが一斉に動き出した。
ズズズズ……地面を這う不快な音。
波打つ熱気が視界を歪ませる。
ギリギリギリィッ!! バキバキッ!!
巨大な牙を噛み鳴らす咆哮が、耳を裂き、体を震わせた。
「グワアアアアッ!! ギャアアアッ!!」
十六の喉から搾り出される絶叫とともに、怒涛のように魔法弾が飛びかかる。
俺はノクスの前に立ち、次々と飛来する魔法を剣で叩き斬った。
鋼を擦るような金属音が連続する。
「リドリー、手を出せ!」俺は彼女に魔力を流し込む。
天空に、轟くような音を立てて、数十の魔法陣が出現した。
周囲の空間がきしみ、魔力の波動が髪と衣を逆立てる。
「これくらいで充分だろ。見事なもんだろう!」
ノクスが胸を張る。
「これからどうする?」
「もちろん、撃つさ。巻き添え食らう前に、下がろう!」
俺はノクスの体を抱き上げ、一気に戦場を飛び退いた。
次の瞬間、天空から数十の融合魔法が、雷鳴のような音と共に降り注いだ。
オロチたちは慌てふためき、地面に潜ろうとする。
だが。
――ドオォンッ!!
爆ぜ上がる砂煙と共に、潜ろうとしたオロチの首たちが、無理やり引きずり出された。
空気が震える。
遠く、古き都カスル・アッ=ダム遺跡の塔。
そこに、誰かの影が揺れる。
「あやつの仕業か……砂漠の魔女」
オロチたちは地に縫いとめられ、次々とノクスの融合魔法の餌食になった。
爆散する肉片、ねじ切れる首。
戦場一面が、血と肉にまみれる。
「ノクス、一つだけ首を残せ!」
「どうして?」
「勘だ。全部倒すと、全部復活する……そんな仕掛けな気がする」
――そのとき。
普段は後方に隠れているダークウェルが、
何かに突き動かされるように前線へ走り出した。
「どうした、そんなに慌てて?」
俺はすかさず奴の進路を遮る。
剣を握る手に、自然と力がこもる。
奴も俺を睨み返す。油断なく、鋭い目で。
どちらを先に仕留めるか――ダークウェルか、ヤワタノオロチか?
答えは決まっている。
俺は、ダークウェルの行く手を塞いだ。
「決着をつけようか?」




