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嘘つきレイラ 時をかける魔女と幼馴染の物語  作者: 織部
嘆きのレイラ

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激戦 1

 俺はヤワタノオロチの攻撃を受け入れるしかなかった。少しでも時間があれば、何かできたかもしれない。しかし、目の前で転がる剣は遠く、手が届かない。視界の隅に、見慣れた影が現れる。ナッシュとナナだ。


 彼らが放った矢や投擲されたナイフが、暴れ回るヤワタノオロチの首に命中したその瞬間、オロチの意識が俺から外れる。噛まれ、空中で磔にされている俺のことなど後回しにし、奴らはナッシュ兄妹に向かった。


「今だ!」痛みをこらえながら、俺は剣を掴んだ。だが、その瞬間、ダークウェルの声が響いた。

「何をしている、馬鹿が! その男を噛んでおけ!」

 彼の慌てた指示がヤワタノオロチに届く。ナッシュ兄妹は馬に乗り、オロチの注意を引くように挑発しながら逃げていた。


「こっちだよ! おいで!」

「ばーか、のろま!」


 奴らは首ごとに意志を持っているかのように絡み合い、ナッシュ兄妹に迫る。土の魔法を吐く首が乗った馬が吹き飛ばされ、ナッシュとナナは地面に叩きつけられた。揺れに乗らなかったオロチの首が再び俺を狙う。

「ナッシュ、ナナ! 逃げろ!」

 俺は叫びながら、全力で治癒魔法をかけつつ、迫る首に向かって剣を構えた。迫ってきた首は四本だけ。


「これなら捌ける!」

 俺の剣が魔力を帯び、オロチの吐く魔法を消し去り、次々に迫る首を切り落とした。一首、二首、三首、四首…。だが、ナッシュ兄妹に迫るオロチの首は、獲物を捕らえる速度が急激に増していた。首の長さは予想以上に長く、未だ本体は地下深くに潜んでいる。


 ナッシュ兄妹は必死に逃げていたが、あっという間に追いつかれ、二人の顔には恐怖と焦りが浮かんでいる。首が伸び、ナッシュたちを噛みつかんとするその瞬間、突然、首が腐ったように落ちた。


「我が教会の信者たちに手を出すとは…許されると思うな」

 その声は、高い屋根の上から響いた。魔女ノクスだ。彼女の呪詛のような言葉が空気を震わせ、残りの首を次々と始末していった。呪いか、闇か、毒か。何れにしても、それらすべてが一体となった複合魔法のように感じた。


 一方、町の中では崩壊が始まっていた。オロチの猛攻で、建物が崩れ落ち、人々の叫び声が響き渡る。無慈悲な破壊が広がる中でも、ノクスは一切動じることなく、その力を振るっていた。


「脆いものよ!」ノクスの声は、まるで嘲笑のように響く。彼女は無駄に動かず、ただ力を示していた。

 ダークウェルはその光景を愕然とした表情で見守りながら、納得したように頷き、俺に語りかけてきた。


「ふむ、他にも味方がいたようだな。お前たちを楽しませてやろう」


 その言葉が終わると同時に、八本の首が一瞬で、まるで何事もなかったかのように再び鎌首をもたげ、俺を睨んだ。そして、ノクスにも、八本の首が向けられる。違う。いつの間にか、首の数は倍増していた。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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