レイラの策謀
レイラサイド。
リドリーが旅に出てから、私たちはずっとヴォルノグラードの城に籠もっていた。
「リド、今度こそ上手くいくといいわね」
私は窓を開け、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込む。
「レイラ様、お身体に障ります」
心配そうに声をかけてきたのは、メイド服を着たレジーナだった。
「たまには外の空気に触れたいの。もう体調はすっかり落ち着いてるわ」
言い終えるより早く、風を裂く音が響く。
沈黙を引き裂くように、矢が私を狙って飛んできた。それを、レジーナは迷いなく片手の剣で叩き落とす。
「……上手いわね」
私は軽く笑いながら、彼女の技量を讃える。
「だから言ったのに。窓なんて開けるから……」
「ふふふ、ティアの出番を奪っちゃ駄目よ、レジーナ」
私の肩でうずくまっていた小さな鳥が、眠たげに羽を広げる。その瞬間、風が部屋の中を渦巻き、棚の書類や花瓶が舞い上がった。
「ティア、もうすぐあなたの力が必要になるわ。少しだけ眠っていて」
アイスドラゴンの目が細くなり、その奥に蒼い光が宿る。
——何度目かの失敗の末、私はルクスに手紙を送った。魔女は、時間の巻き戻しを知っている。
「随分と苦労してるようじゃない。で、今度は私?」
「あなたと私、同盟を結んだはずでしょ。手を貸して」
「他の魔女は?」
「他の魔女には別のことをお願いしてるわ。あなたは戦いが得意だから。だからお願いしているの。西方聖教会には寄付しておくわ。布教活動も、好きにしてくれて構わない」
「ほんと、聖職者に対してずいぶん気楽な言い分ねぇ……まぁ、おまえが私を呼んだ時点で、何もかも計算済みなんでしょうけど」
「さぁ」
私は肩をすくめ、微笑んだ。
私はニコライの巡行を仕組んでいた。
彼を帝都から遠ざければ、暗殺者の手も、担ぎ上げようとする勢力の手も届かない。
そして、自然な形で――リドリーと出会わせ、共に南方へと送り出せる。
それによって、マルクをこちらに引き寄せることもできる。吸血鬼の魔女が真の力を取り戻すには、彼の存在が不可欠なのだから。
悪魔を閉じ込めている蓋の守護者である魔女の力は必要だ。
恐ろしい、諸悪の根源との戦いが待っているから。
「本当は、ティアも一緒に行って欲しいけど……こちらもこれから戦になるものね」
そのとき、ティアが小さく啼いた。
鋭く、短く。彼に何かが起きたという合図。
「負けないで、リドリー」
私は囁く。「さあ、敵の登場よ」
身を翻し、鋭い声で叫んだ。
「レジーナ、モルガンに合図を!」
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