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監獄へ

俺は、ハーンの案内で町を進む。

「どっちだ、ハーン殿」

逃げようとするたびに、腕をぐっと締め直す。まったく、面倒な案内役だ。


ぽきっ。

指の下で、小さな破裂音がした。骨の軋む、いやな手応え。

「があぁぁっ!」

ハーンが情けない悲鳴をあげ、道端で跳ねるように身をよじらせる。


その後ろを、無言の奴隷が二人、巨体を揺らしてついてくる。顔をこわばらせた州兵たちも、言葉を飲み込んだままぞろぞろと続いた。靴音だけが、妙に騒がしい。


「やれやれ、打たれ弱いな、ハーン殿。骨の一本で騒ぐな。戦場じゃ笑われる」


俺は、片手で州兵長の身体を頭上に掲げていた。重いが、反応はない。

泡を吐き、白目を剥いた顔は、すでに意識の彼方。顎から垂れた唾液が、鎧の縁を濡らし、じわじわと滴り落ちていく。


「うげ……汚ねぇ」

思わず反射で、奴隷たちの方へその身体を放り投げた。


どがっ。

「悪いな。こっちに吐かれても困る」


奴隷たちは呻きながらも、ずしんと受け止めて尻もちをつく。鎧の金属がぶつかり合い、街路に無遠慮な音を響かせた。

まあ、あの程度で壊れるような身体じゃない。


「お前たちの隊長だろ。知らんぷりせず、面倒見てやれ」


声を飛ばすと、硬直していた州兵たちが我に返ったように駆け寄る。

「州兵長! しっかりしてください!」

「舌、噛んでないか!? 水を……誰か、水を!」


喧騒の中、俺はハーンの肩を軽く叩いた。

彼は驚いたように顔を向ける。逃げる気配は、もうない。ただ、目の奥には諦めきれない狡猾さがまだ燻っていた。


「じゃ、あとは任せた。俺たちは監獄へ向かうぞ、ハーン殿」


ハーンは顔を歪めつつ、小さく頷いた。観念したふりをしながら、頭の中では別の手を探っている顔だった。



てっきり、監獄は町の外れにあると思っていた。

だが、辿り着いたのは――ハーンの屋敷の門前だった。

「……おい。ここ、お前の屋敷じゃないのか?」


石造りの荘厳な門が開き、衛兵が駆け寄ってくる。

「ハーン様、いかがなさいました?」


俺は、わざと腕の力を緩めてみせた。逃げるそぶりはない。だが、筋のわずかな緊張が、内心の企みを物語っている。


「監獄に案内しろ。手筈を整えよ」

ハーンが短く命じる。抑えた声に、何かを含ませたつもりなのだろう。


俺は、その浅はかな目論見を、冷ややかな笑みで迎えた。

「その考えは――甘いと思うがな」


声に氷のような冷たさを滲ませる。

俺は、塔での“戦い”――いや、惨殺をした連中を許すつもりなど、毛頭ない。


屋敷の奥へと続く、半地下の石階段。

そこから漂うのは、湿った鉄と、こびりついた古い血の匂い。


ここからが、本番だ。

そう思いながら、俺は、地下の闇へと足を踏み入れた。

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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