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嘘つきレイラ 時をかける魔女と幼馴染の物語  作者: 織部
嘆きのレイラ

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古き都の教会

 ニコライと俺の馬車から、食料品、日用品など、多種多様な物資を運び出した。


「ありがとうございます……。実のところ、バルバッドからの供給が途絶えて以来、蓄えも尽きかけておりまして」執事長が胸に手を当て、深く頭を下げる。


「私からも礼を申し上げます。……何から何まで」

 アルもかすかに微笑んで、そっと頭を下げた。

「……悪いのは、約定を反故にした帝国だ。なあ、ニコライ、マルク」

 俺が問いかけると、二人は言葉なく、静かに頷いた。


 マルクはアルに目をやると、ふいに眉を寄せた。

「それより、アルマリカ様は、もう少し休まれた方がよろしい。……寝室へ。飯も、ちゃんと食え」


 そう言いながら、首元に残る噛み跡を見せびらかすように、アルを軽々と抱き上げた。


「ちょ、ちょっと……馬鹿なこと言わないでください。そんな無理したら……貴方が倒れてしまいますよ」


 頬を染め、小声でたしなめるアルは、けれど嫌がる様子もなく、マルクの腕の中に身を預けていた。

「ほほほ、魔女にしては初々しいのう。ところで、年齢差はいくつじゃ?」


 ノクスがにやりと笑いながら冷やかす。

「うるさいぞ、ノクス。……さあ、俺たちも飯を作って食おう」


 そう言って俺は、軽く拳でノクスの頭をぽかりと叩いた。ノクスは笑いながら、くぐもった声で「いてて」と呟いた。


 ※


 戦死者たちの葬儀は、その日のうちに、慎ましく、静かに行われた。


 この古き都の地下には、かつて幾つかの教会が埋もれていた。そのひとつを掘り起こす作業は困難を極めたが、マルクの部下「砂の民」の叡智と、俺の腕力によって、全貌が露わになった。


「ふむ、見事じゃな。お主ら、よくやったぞ。……ほほほ、それにこの十字架、西方聖教会のものじゃ」

 ノクスが、勝ち誇るように言った。

「郊外には、たしか東方正教会もありましたね」

 アルが遠い記憶を辿るように呟いた。ノクスの顔がすっと曇る。


「ふん……まあ、あちらは口うるさいからのう」

「私はただ、彼らの魂が、穏やかに天へ召されることを願っているだけです。……よければ、お手伝いさせていただけませんか。ルミナ様の厳かなる御力……私は信じております」


 ニコライは、祈るように言った。迷いは、少しもなかった。

 ノクスは目を細めると、小さく頷いた。

「……ほお。これは、見直したぞ。任せた」

 ノクスの身体が、ほのかに光を帯び、ルミナへと静かに姿を変えていった。


 その夜。

 白い長髪が揺れ、白いローブがゆるやかに風を孕む。

 清らかで、どこか哀しげな眼差しを向けながら、彼女は小さく口元を綻ばせた。

「……始めましょう。祈りをこめて」ルミナが讃美歌を唄う。

 ニコライが、目を閉じ、沈黙の中で祈りを捧げる。


 一人ひとりの名が読み上げられ、参列者が順に白い花束を捧げていった。

 亡骸は清められ、整えられ、優しい布に包まれて、静かに並べられていた。

 蝋燭の灯りが、その眠る顔を柔らかく照らしていた。


「すまない」

 アルは、悔いなき旅立ちの表情を見つめながら、ぽつりと呟いた。


「きっと、みんな……許してくれますよ。いえ、貴女を守れたことを、誇りに思ってますよ」

 そして、アルの頬に涙が一筋、静かにこぼれた。マルクが黙って、その肩に手を置いた。


 夜明け。

 空がほんのりと明るくなり始めた頃、俺はニコライの隊列とともに、バルバッドへ向けて都を発った。


 ナッシュ兄妹とノクス――いや、ルミナ、そしてマルクたちは、この地に残ることとなった。

 振り返れば、古き都に立つ彼らの姿が、静かに見送ってくれていた。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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