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マルクの母

アルはマルクの体に身を預けると、首筋にがぶりと噛みついた。


「……っ」

 マルクは一瞬、痛みに眉をひそめたが、すぐにその表情を緩め、そっとアルの頭を撫でる。


 赤子が母を求めるように、アルは一息ついて満足げに瞼を閉じ、そのまま静かに眠りへと落ちていった。


 マルクは彼女を優しく抱き上げ、寝床へと運ぶ。そして、その寝顔を慈しむように見つめ続ける。

「危機は脱したな」


 ノクスが低く呟く。


「だが、魔女との約定とは何だ? それに、お前の母との関係は?」

 俺は静かに問いかけた。

「アル様と、この地に伝わる約定について、説明しよう」


 “魔女”――それは、かつて滅びた王国の王女と、吸血鬼の末裔が混ざり合って生まれた存在。この地において、魔女は代々、為政者とある契約を交わしてきた。


 その内容は、年ごとに一人の端女と、わずかな生活必需品を献上する代わりに、魔女の棲まう地――カスル・アッ=ダム――への立ち入りを禁ずるというものだった。対価として、魔女もまた人の領域を侵すことはない。


 帝国がこの地を平定した折、当時の皇帝はこの“魔女”に謁見した。


 そのとき、魔女に仕えていた一人の侍従――マルクの母を気に入り、譲り受けたという。


「“私の親族として扱え”と、魔女は皇帝に命じたそうだ。もちろん、後宮では波風も立ったが、皇帝の庇護の下、母の命が奪われることはなかった」


 その後、皇帝の死が近づく中で母が病に倒れ、マルクは“ナーシル砂海連邦の有力者の養子”という体裁で国外へと送られた。それが、今の彼だった。



 ほどなくして、ナナが一人で戻ってきた。

 二人とも、服が乱れている。


「遅かったな」

「でへへ、ちょっと暴れすぎちゃいました。地下、思ったより広くて。つい走り回っちゃって」

「……だろうな」


 ナッシュ兄妹には、塔の異変の調査を任せていた。彼らは塔に入り、地下迷宮を抜け、潜伏していた強盗団の後を追った。


 途中、道には倒れ伏した守護者たちの遺体が散乱していた。そして最下層――そこには、隠れていた女の子たちに手をかけようとしていた強盗団の姿があった。


「女の子たちに危害を加えようとしてたんです」

「だから、つい……でも、殺してはいません」

「それでいい。いや、むしろよくやった。で、奴らは?」


「逃げました。でも……兄者が、あの子たちを守って、塔に残ってます」


 その報告を、俺はマルクとニコライに伝えた。協議の末、塔へと向かうことが決まる。

「強盗団の正体は、バルバッドから来た兵士で間違いありません」

 ナッシュが、強盗団の落とした遺留品を俺に手渡しながら、静かに言った。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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