砂に眠る不滅の女王
「お前、魔女か?」俺は尋ねた。
「そこにおる者と一緒にしないでください。私の名は――アルマリカ・アルハーリダ・フィッ・リマール」
「ん? じゃあ、アルでいいか。アルはこんなところで、何してるんだ?」
「……それは後で話します。今は、まず……陽の光を避けてください。今の私には、耐えられません」
アルの言葉には、切迫感が滲んでいた。
「わかった。場所を移そう」
しばらくして、ナッシュ兄妹とニコライが到着した。
「ナッシュ、ナナ、あの塔で起きていることを調べてきてくれ」
「御意!」
「やったぁ、やっと仕事らしい仕事だよ、兄者」ナナが兄の手を取って飛び跳ねる。
「そうだね、妹君、頑張ろう!」
喜び勇んで、二人は塔へ向かい、すっと姿を消した。
俺たちは、塔から少し離れた場所にテントを張り、その中に棺桶を運び込んだ。テントの中はしっかりと陽の光を遮ってある。
「それじゃ、開けるぞ」
俺は重い蓋に手をかけ、力を込めて開いた。
ぎぃぃ、ばしゃん。
白い衣に施された小さな花の刺繍。金の花飾りが、かすかな光にきらりと輝く。
その少女は、テントの中なのに、まるで砂漠の風を受けているかのように、衣を微かに揺らしながら、ゆっくりと目を開けた。
赤い目と、ちらりとのぞいた八重歯。まるで皇女のように、気品を漂わせている。
そこにいたのは、俺、マルク、ノクス、そしてニコライだけだ。ニコライには「危険だからやめておけ」と言ったが、「リドリー様がいらっしゃいますから」と笑って動かなかった。
アルはすっと立ち上がると、優雅に一礼する。その所作には、洗練された気品が漂っていた。
俺たちが名乗りを終えると、彼女の話を聞くことにした。
「だが、お主……かなり弱っておるな。魔力が足りとらんだろう。先に補充した方が良い。リドリー!」
ノクスが俺を突き出すように言った。だが、アルはかぶりを振った。
「それはできません。人との約定に反します。それに……この者には、魔女と他の女の匂いが――」
「ははは、嫌われたな、リドリー。ああ、臭いものな。他の女の匂いは特に」ノクスは妙に納得していた。
だが、アルの顔色は青白く、危うい。
「その約定とやらは、もう破られているんじゃないのか?」黙って聞いていたマルクが口を開いた。
「……」
「この地はお前の領域だろう。そこに野盗が入っている。捧げられるはずの“約束の女”も送られてきていない」
なぜかマルクが、彼女の代わりに憤っていた。
「……その通りです」
「その男が嫌なら、俺の魔力を吸え。死なない程度にな」
「でも……私の魔力の吸い方は……」
「知ってるさ。砂の民に伝わる吸血鬼の伝承を。それに――俺の母は、お前の侍従だった。貧しい身分の母に、お前がしてくれたことは、ちゃんと聞いている。だから、遠慮はいらない」
「兄さん……」ニコライが止めようとするが、マルクの決意に言葉を飲んだ。
「そうか……私の侍従が、お前の母……」アルは、ふっと微笑んだが、そのまま力を失い、倒れそうになる。
すっと、それを支えたのはマルクだった。優しく、当たり前のように。
お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。