表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/181

砂に眠る不滅の女王

「お前、魔女か?」俺は尋ねた。


「そこにおる者と一緒にしないでください。私の名は――アルマリカ・アルハーリダ・フィッ・リマール」


「ん? じゃあ、アルでいいか。アルはこんなところで、何してるんだ?」


「……それは後で話します。今は、まず……陽の光を避けてください。今の私には、耐えられません」

 アルの言葉には、切迫感が滲んでいた。


「わかった。場所を移そう」


 しばらくして、ナッシュ兄妹とニコライが到着した。

「ナッシュ、ナナ、あの塔で起きていることを調べてきてくれ」

「御意!」

「やったぁ、やっと仕事らしい仕事だよ、兄者」ナナが兄の手を取って飛び跳ねる。

「そうだね、妹君、頑張ろう!」


 喜び勇んで、二人は塔へ向かい、すっと姿を消した。


俺たちは、塔から少し離れた場所にテントを張り、その中に棺桶を運び込んだ。テントの中はしっかりと陽の光を遮ってある。


「それじゃ、開けるぞ」

俺は重い蓋に手をかけ、力を込めて開いた。


ぎぃぃ、ばしゃん。

白い衣に施された小さな花の刺繍。金の花飾りが、かすかな光にきらりと輝く。


その少女は、テントの中なのに、まるで砂漠の風を受けているかのように、衣を微かに揺らしながら、ゆっくりと目を開けた。


赤い目と、ちらりとのぞいた八重歯。まるで皇女のように、気品を漂わせている。


 そこにいたのは、俺、マルク、ノクス、そしてニコライだけだ。ニコライには「危険だからやめておけ」と言ったが、「リドリー様がいらっしゃいますから」と笑って動かなかった。


 アルはすっと立ち上がると、優雅に一礼する。その所作には、洗練された気品が漂っていた。

俺たちが名乗りを終えると、彼女の話を聞くことにした。


「だが、お主……かなり弱っておるな。魔力が足りとらんだろう。先に補充した方が良い。リドリー!」


 ノクスが俺を突き出すように言った。だが、アルはかぶりを振った。


「それはできません。人との約定に反します。それに……この者には、魔女と他の女の匂いが――」


「ははは、嫌われたな、リドリー。ああ、臭いものな。他の女の匂いは特に」ノクスは妙に納得していた。


だが、アルの顔色は青白く、危うい。


「その約定とやらは、もう破られているんじゃないのか?」黙って聞いていたマルクが口を開いた。


「……」

「この地はお前の領域だろう。そこに野盗が入っている。捧げられるはずの“約束の女”も送られてきていない」


 なぜかマルクが、彼女の代わりに憤っていた。

「……その通りです」

「その男が嫌なら、俺の魔力を吸え。死なない程度にな」

「でも……私の魔力の吸い方は……」


「知ってるさ。砂の民に伝わる吸血鬼の伝承を。それに――俺の母は、お前の侍従だった。貧しい身分の母に、お前がしてくれたことは、ちゃんと聞いている。だから、遠慮はいらない」


「兄さん……」ニコライが止めようとするが、マルクの決意に言葉を飲んだ。


「そうか……私の侍従が、お前の母……」アルは、ふっと微笑んだが、そのまま力を失い、倒れそうになる。


 すっと、それを支えたのはマルクだった。優しく、当たり前のように。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ