砂の民
途中、幾つかの村に立ち寄った。どこも似たような状況で、その度に解決策を示してきた。
「ははは、布教がうまくいっておるな」ノクスは喜んでいるが、その目は笑っていなかった。
理由は、あの烙印のことだ。南に下るほど、押されている人々が増えているからだ。
「このままじゃ、俺の体が持たん」
「そうは見えんな。嘘をつくな。お前、また魔力操作が上手くなっているだろう?」
「まあな、鍛えられてるからな」
数多くの治癒魔法を使ううちに、無駄な魔力を使わず、繊細な操作ができるようになっていた。
帝国南西部の砂漠の町、バルバッドまで、あと少しのところで異変が起きた。
「手荒なお出迎えがきたようだな」
暑さを避け、朝と夕方に移動していたキャラバンは、昼間はオアシスに逃げ込んで休憩していた。
砂漠の民の軍勢らしき一団が、こちらに近づいてくる。
全身を覆う白い長衣と頭巾をまとい、砂漠鳥に跨り、背には湾曲刀と弓を携えている。
人数は十人ほどか。機動力を重視した索敵部隊だろうか?
ザッ、ザザッ……タタタタッ!
乾いた砂を蹴る鳥の足音が近づいてくる。
「そこだ、いけっ!」兵の中で、派手な衣装をまとった若き勇猛な男が指示を出すと、集団でこちらに向かってくる。
警戒はしているものの、攻撃の気配はない。
「なんだ、つまらん」俺は、ニコライが休んでいるテントに駆けて行った。
ニコライは、長旅の疲れで昼寝をしているようだ。無理もない、俺らと違い体力がないのだろう。
入り口に立つ警備兵に、一言告げる。
「リドリーさん、入ってください」
寝床から起き上がり、司祭としての佇まいを整えて俺を迎え入れる。
「客が来るぞ。砂の兵だ」
「わかりました。同席してもらえますか」
「何者なんだ?」
「さて、何者でしょうか」
俺が尋ねると、ニコライは予想がついているようだったが、ただ含み笑いで答えた。
砂漠鳥をオアシスの餌場に放つと、砂漠の民の兵達は、こちらに向かって歩いてきた。
オアシスの民とは旧知の仲らしく、特に怯えた様子もない。むしろ、敬意と親しみが入り混じった視線を向けてくる。
「ナーシル砂海連邦だ。お前たちの代表者に会いに来た」
帝国の一州、ラシュド州の隣に広がる国の名前だ。
「私が、このキャラバンの代表者、東方聖教会の司祭――ニコライです」
そのとき、兵の中から一際目立つ男が一歩前に出た。
指揮をしていた男。白地に金糸を縫い込んだ豪奢な衣装をまとい、額には翡翠の飾りを巻いた頭巾をつけている。
マリク――宝石の指輪を嵌めた手で、まっすぐにニコライを抱きしめた。
「久しぶりだな。立派な司祭の姿だ」
その声には、兄としての誇りが滲んでいた。
「兄さんこそ……すっかり砂漠の民だ」
その目を見たニコライが、微かに目元を緩めた。「……でも、変わってない。昔と同じ目だ」
なるほど、そういうことか。俺は理解した。
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