マゴメドの葬儀
翌日夜、マゴメドの葬儀が、丘の上の西方聖教会で行われることになった。
ナッシュ兄妹の指示で、昼間には子供たちが楽しげに清掃し、小遣いをもらって喜んでいた。
建物自体は、街のまとめ役に工事を進めさせている最中だ。まだ未完成だが、儀式を行うには十分だった。
「直し出したらキリがない。本山すら工事中だし、こっちも移動しなきゃならんからな」
死んだマゴメドにとっては、いい迷惑だろう。信仰すらしていなかったというのに。
街の新たな顔役、長老たち、難民たち、そしてリドリーに癒やされた者たちまでが出席し、教会は人であふれていた。
「すみませーん、入りきらないので、ケンカにならないように、ぎゅっと詰めて座ってくださーい!」
ナッシュの声が教会に響く。
ならず者たちは、俺と一緒に最後尾で立ち見だ。目を合わせようともしない。
「お前らのボスの葬儀だぞ。もっと前に行ってやれよ?」
にやりと笑って声をかけると、奴らはびくりと肩を震わせて答えた。
「こちらで……十分です」
「そうか。みんな立てるようになったみたいで、よかったな」
道の真ん中で寝転んでいたから、交通の邪魔になってたんだ。だから道端に蹴っておいた。
まあ、あの時の俺は、ノクスの無茶な依頼で治癒魔法を連発し、疲れ切っていたし、空腹でいらいらしていた。
転がしたのが自分だったと気づいたのは、後になってからだった。……奴らが覚えていないことを願う。
民衆の集まりに満足げなノクスに声をかけた。
「で、誰が執り行うんだ?」
「ルミナじゃよ。仕込んである。それじゃ、着替えてくるから」
そう言って、ナナに手を引かれながら、ノクスは風のようにすっと気配を消していった。
「……大丈夫なのか?」
一抹の不安がよぎるが、俺が気にすることでもないと割り切り、一度外に出て空気を吸った。
そのとき、ニコライ司祭の馬車が丘を目指しているのが見えた。
「やあ、ニコライ。何しに来た? 偵察か?」
俺がいるのに宗教戦争なんか始まったら、レイラに冷たい目で見られるのは必至だ。
馬車から降りたニコライは、いつもの司教の格好ではなく、町人風の姿だった。
「いえ、勉強ですよ。リドリー様とご一緒です。お前たちは下がっていい」
そう言って、護衛と馬車を帰らせる。
「ん? 俺を信じていいのか?」
「もちろんです。レイラ様の騎士団長とお聞きしましたから」
「へえ……勉強熱心なこった。感心するよ、ニコライ司祭殿」
肩をすくめて、俺は再び教会に戻った。
ちょうどそのとき、聖歌の合唱が始まった。
それは伝承歌らしく、音楽自体は多くの人が知っていた。
ルミナが先導して謳い、民衆がそれに続く。歌詞を覚え、声を重ねていく。
ナッシュ兄妹が印刷した歌詞の紙を配って回っていた。
「……まったく。これじゃ、俺の配下というより、ノクスの配下だな」
自分のことは棚に上げて、ぼそりと呟く。
普段はほとんど話さず、話しても小声のルミナ。
だが今、白き長き髪と白の衣装に身を包み、神々しさすらまとっていた。
その歌声は、静かに、けれど確かに、空間を満たしていく。
――美しい歌声だった。
民衆が息を呑み、思わず心を重ねるように追唱し、教会がひとつになる。
その瞬間、俺の背筋にも、ひやりとした震えが走った。
聖女とは、こういうものを言うのかもしれない。
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