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嘘つきレイラ 時をかける魔女と幼馴染の物語  作者: 織部
嘆きのレイラ

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朽ち果てた西方聖教会

 ナッシュ兄妹たちが、町のまとめ役や長老たちを連れて、マゴメドの事務所へ向かってくる足音が聞こえた。


「それで、“良いこと”ってのは何なんだ!」

「わしらを謀る気じゃなかろうな!」

 威勢のいい声が、事務所の前でぴたりと止まる。目に飛び込んできたのは、這いつくばる用心棒たちの姿だった。


「た、たすけて、くれ……」

 一人が、かすれた声をなんとか絞り出す。

「大丈夫ですかぁ」

「頼む……医者を……」

「ただの筋肉痛ですよ。明日……いえ、二、三日もすれば立てますって」


 ナッシュたちも、ああいう光景は何度も見てきたはずだ。いや、ナッシュたちも訓練のときにやられて、俺が癒していた。


 今回は、見せつけるように――わざと、放置したのだ。

「ここにいるぞ!」

 俺は窓から声をかけた。

「あっ、リドリー様!」

「ええ。お待たせするわけにはいきません。どうぞ、お入りください」


 彼らは腰を引きつつ、まるで絞首台にでも向かうような足取りで階段を上ってくる。そして、マゴメドの部屋に足を踏み入れた瞬間、立ち尽くした。

 床に転がる死体に、誰もが言葉を失う。


 マゴメドの配下の幹部たちは、視線を落とし、誰一人として口を開こうとしない。

 重く、張り詰めた沈黙が部屋を包んでいた。


「――神の裁きにあったようだ」

 仕方なく、俺が口を開く。

 ノクスは、笑いを堪えながら、俺の背にそっと隠れていた。

 これで、打ち合わせに必要な人物は全員そろった。不用意な一言で、また“神の裁き”が下らなければいいが……。

 そんなことを考えながら、俺は腹の虫の鳴き声に意識を引き戻された。


 ――早く終わらねえかな。飯のことしか考えられん



 赤き山の麓の外れ、小高い丘の上には、朽ち果てそうな西方聖教会が残っていた。


「まだ、ここには信仰が残っている」

 礼拝する者も少ないようで、そこら辺で摘んだ美しい花を祭壇に捧げている。

 汚れた服を着た貧相な小さな女の子が、一心に古き神に祈りを捧げていた。


「どうか、母さんの病気が治りますように」

 訪れる者たちは、おそらく何らかの理由でこの地に辿り着いた流民たちだろう。彼らは貧民街のテント村で生活している。

「ふむ。あの子にしよう」ノクスは何かを思いついたようだった。


「リドリー、お前信者の癖に寄付もせず、魔力で払ってもらおう!」

「いや、俺はレイラ以外信じないと……」

 ナッシュ兄妹に街の者たちとの教会の立て直しを指示すると、ノクスが女の子の後をつけて行こうとした。


「おい、ちょっと待て」

 俺はすかさず声をかけ、ノクスの動きを見逃さないように後をつけた。

 やれやれ、あいつは放置しておくと何をやるかわからない、危険人物だからな。

 監視も兼ねて、俺はやむなくついて行くことにした。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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