朽ち果てた西方聖教会
ナッシュ兄妹たちが、町のまとめ役や長老たちを連れて、マゴメドの事務所へ向かってくる足音が聞こえた。
「それで、“良いこと”ってのは何なんだ!」
「わしらを謀る気じゃなかろうな!」
威勢のいい声が、事務所の前でぴたりと止まる。目に飛び込んできたのは、這いつくばる用心棒たちの姿だった。
「た、たすけて、くれ……」
一人が、かすれた声をなんとか絞り出す。
「大丈夫ですかぁ」
「頼む……医者を……」
「ただの筋肉痛ですよ。明日……いえ、二、三日もすれば立てますって」
ナッシュたちも、ああいう光景は何度も見てきたはずだ。いや、ナッシュたちも訓練のときにやられて、俺が癒していた。
今回は、見せつけるように――わざと、放置したのだ。
「ここにいるぞ!」
俺は窓から声をかけた。
「あっ、リドリー様!」
「ええ。お待たせするわけにはいきません。どうぞ、お入りください」
彼らは腰を引きつつ、まるで絞首台にでも向かうような足取りで階段を上ってくる。そして、マゴメドの部屋に足を踏み入れた瞬間、立ち尽くした。
床に転がる死体に、誰もが言葉を失う。
マゴメドの配下の幹部たちは、視線を落とし、誰一人として口を開こうとしない。
重く、張り詰めた沈黙が部屋を包んでいた。
「――神の裁きにあったようだ」
仕方なく、俺が口を開く。
ノクスは、笑いを堪えながら、俺の背にそっと隠れていた。
これで、打ち合わせに必要な人物は全員そろった。不用意な一言で、また“神の裁き”が下らなければいいが……。
そんなことを考えながら、俺は腹の虫の鳴き声に意識を引き戻された。
――早く終わらねえかな。飯のことしか考えられん
※
赤き山の麓の外れ、小高い丘の上には、朽ち果てそうな西方聖教会が残っていた。
「まだ、ここには信仰が残っている」
礼拝する者も少ないようで、そこら辺で摘んだ美しい花を祭壇に捧げている。
汚れた服を着た貧相な小さな女の子が、一心に古き神に祈りを捧げていた。
「どうか、母さんの病気が治りますように」
訪れる者たちは、おそらく何らかの理由でこの地に辿り着いた流民たちだろう。彼らは貧民街のテント村で生活している。
「ふむ。あの子にしよう」ノクスは何かを思いついたようだった。
「リドリー、お前信者の癖に寄付もせず、魔力で払ってもらおう!」
「いや、俺はレイラ以外信じないと……」
ナッシュ兄妹に街の者たちとの教会の立て直しを指示すると、ノクスが女の子の後をつけて行こうとした。
「おい、ちょっと待て」
俺はすかさず声をかけ、ノクスの動きを見逃さないように後をつけた。
やれやれ、あいつは放置しておくと何をやるかわからない、危険人物だからな。
監視も兼ねて、俺はやむなくついて行くことにした。
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