街の顔役
その貧民街にも、いくつかの大きな建物が建っている。大きいと言っても、帝都や町とは違い、いわば雑居ビルのようなものだ。
「ナッシュとナナは、この貧民街のまとめ役や長老など、主だった者を集めてくれ。レイラの名前は使うなよ」
「了解しました」「叩き起こしてきまーす」
「さて、この街の顔役に挨拶に行こうか!」ルミナを連れて、街を歩く。
俺は、一つの建物に目星をつけた。入り口に、柄の悪そうな男たちがたむろっている。酒を飲み、剣を片手に、くだらない話をしている。
「なんだ、小僧と小娘。あっちに行け」
俺たちが近づいているのに気づくと、野犬を追い払うように手を振った。
「いや、この建物の主人に用事があるんだ。どいてくれ」
「はぁ? マゴメド様に何の用だ?」
変装用に着替えてしまったので、ただの若者に見えているんだろうか……俺もまだまだだな。いや、魔力が消えているのか。
「消えないと痛い目にあうぞ!」
早く片付けないと、ノクスが起きて大惨事になる。
俺は、一人を残して殴り倒した。もちろん、一瞬だ。意識は刈り取らない。だが、一日動けず、地面に這いつくばっているだろう。
「え?」
「痛い目にあったな。次は、痛くないぞ、死んでるからな。おい、お前、案内しろ」
怯えた男が、俺から少しでも離れようと急いで階段を登る。
マゴメドの事務所には、幹部連中とマゴメドがいるようだ。扉の外で会話を聞く。
「東方聖教会から、貧民街に食料支援だとよ。受け取ったら、俺のところに持ってこいと指示しろ」
「ですが、ばれたら大変ですよ」
「ばれなきゃいいだろう。安く売ってやろう。まとめ役には、口止め料をやれば……」
「やればどうなるんだ?」俺は、扉を開けて尋ねた。
マゴメド、まさに貧民街の顔役らしい、どっぷりと太った醜悪さが顔に出ている男。
「誰だお前?」ぎょっとしたマゴメドが、立ち上がり俺に向かって激怒しながら言葉を投げかけると、急に顔が青くなり、苦しみで頭を掻きむしりながら、床に崩れ落ちた。
どたん。口から泡を吹いている。
「大丈夫ですか? 親分」
「しっかりして下さい。医者を呼びますよ」
だが、既に生き絶えている。
不穏な魔力。後ろをついてきたルミナが、ノクスに入れ替わった気配。
「過去の悪行の数々で罰を受けたのだな。心臓麻痺とは可哀想に。だが、運が良かったかもしれんな。天に召されるように、盛大に葬儀をしてもらえて」
「おい、ノクス?」全くもう……殺した方が話が早いと判断したのだろう。
「急病だからな。せっかく良い話を持ってきたのに残念じゃ。次の顔役には誰がなるのかな?」
幹部たちは顔を見合わせた。
「きっと、神の信託が降るだろうよ。はっはっは」
ノクスは、どうするつもりだ? 俺は頭を抱えた。
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