バルバッドへ
数日後。帝城、レイラの部屋。
「それじゃあ、行ってくる」
俺は、レイラに接吻をかわした。
彼女は、ここ数日、調子が悪いらしく寝込んでいた。
「一緒に行きたいけど……」
やはり顔色が良くなく、寝衣のままで、少しふらふらしている。
「いや、ノクスも行くらしいから、問題ないよ。モルガン、レジーナ、頼んだぞ!」
「御意」「お任せください!」
食事に毒物が混入されている様子もないし、変な魔力や呪いの影響も感じられない。――それでも、おかしい。
もし何かあれば、俺やティアが気がつかないはずがない。
それでも気になって、砂漠の町・バルバッドへの同行は取りやめようとした。
だが――
「お前がおる方が疲れるわ」
ノクスにそう言われ、レジーナも同意したので、仕方なく出かけることにした。
ティアには、その代わり、留守番をしてもらうことにした。
「もし魔物や悪魔が出たら、その時は呼ぶ。レイラを頼む」
気分屋のティアは、ぶらりと世界を旅してしまうが、こうやって頼んでおけば、ちゃんと責任は果たしてくれるだろう。
「悪いな。何かあったら、レイラを連れて逃げてくれ」
鳥の姿のティアの頭を撫でる。
「ぐるるる……」
“逃げろ”という台詞が癪に障ったのか、唸っている。だが、鳥の姿では、その反応もただただ可愛く見えてしまう。
「最強のお前に逃げろとは、確かに失礼だったな。でも、何があるかわからんから、念のためだ」
王国に帰りたい気持ちはある。だが、皇帝は病と偽って部屋に籠もり、皇帝のドラゴンも未だ姿を現さない。不安要素が、残っているのだ。
「王国にいると仕事が増えるし。ここの方が、のんびりできるわ」
「……わかった。もう寝ろ」
俺は、レイラをそっと抱き上げ、寝室のふとんに優しく寝かせた。
「しかしなんでお前もついて来たんだ?」ノクスに尋ねた。
「帝都は駄目じゃ、東方聖教会が強すぎる。狙いはまず南方だ」
帝都では、それ以外の教えはすっかり消えてしまったようだ。だが、帝都に出稼ぎできている者に聞いたら、バルバッドのある南方では未だに、古い教会や信者がいるようだ。
「何の宗教かは、おらは知らん。だが、幾つか教会がらあったぞ!」
「こんなクロス持っておったか?」
「そんな気もするが……」
こんなやりとりがあったと、馬車でナッシュ兄妹が俺に教えてくれた。
「布教するのは構わんが、まずは悪魔払いだからな!」
俺は、馬車に山とつまれた布教の道具を見て、何しに行くのか? と頭を抱えた。
待ち合わせ場所の、東方聖教会のカテドラル前について、ニコライの隊列に合流した。
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