セレストの丘
次に俺たちが訪れたのは、帝都ヴォルノグラードを一望できるセレストの丘だ。
帝都は広く、帝国が大きいのを実感できる場所だ。
そこには歴代の皇帝が眠る霊廟があり、過去の英雄たちが眠る場所でもある。
「立派な墓なんて、必要ないのにな」
霊廟は権威の象徴であり、また、過去の幾つかの時代を代表する建築物として残っている。
丘の下に広がる平地には軍隊が駐留していた。見覚えのある顔ぶれが、忙しそうに作業をしている。
「リドリー様!」
声を上げたのは、レイラの近衛騎士団の団員たちだった。俺を見つけると、次々に駆け寄ってくる。
「おお、久しぶりだな。みんな元気そうで何よりだ」
「久しぶりじゃありませんよ! モルガン、レジーナ副団長も、指示を出すだけで全然来ませんし」
「なんだそりゃ、あいつららしいな。顔を出すように言っとくよ。それで、お前たちはこんなところで何をしている?」
俺が尋ねると、団員たちは憤慨した様子で睨んでくる。
「冗談だよ、冗談! ……まあ、それはそれとして、しばらくレイラの側を離れるかもしれん。だから、お前たちがしっかり守ってくれ!」
「はい!」
「よし、それじゃあ久しぶりに訓練でもするか。ナッシュ兄妹も参加しろ! 全員でかかってこい!」
俺は訓練用の木剣を手に取る。
「いやぁ……」
ナナが悲鳴を上げ、逃げ出そうとするのを捕まえる。
「わしもか?」
ノクスが尋ねてくる。
「お前が参加したら大変なことになる……。じゃあ、男性の騎士団員の相手をしてやってくれ。ただし、軽い怪我までだぞ」
「なんじゃ、なかなか強そうだから、死んでもろてわしの配下にしようと思ったのに……」
「それは冗談になってない! お前のせいでゾンビ軍団が結成されたら、帝都が壊滅する」
ここは霊廟のある丘だ。そんなことになったら、歴代の皇帝や英雄たちを従える最強の死者の軍団が出来上がってしまう。
久しぶりに思い切り体を動かし、気分転換になった。日課で訓練はしているが、やはり相手がいると違う。
気がつくと、俺以外は全員倒れていた。ルミナに戻った少女がポーションを配り、負傷者の看病をしている。騎士団員たちは、怯えた目で彼女を見ていた。
「出発するまで、毎日来るから覚悟しておけよ!」
「そ、それだけは……!」
「お前たちが、顔を出せって言ったんだろう?」
「そんなつもりじゃ……」
団員たちは目を逸らしながら、震えていた。
「まあ、せいぜい鍛えてやるよ。強くなりたいんだろう?」
「ひええ……」
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