戴冠式
いつもお読みいただきありがとうございます。この1話を飛ばしてしまうミスをしてしまいました、お許しください。
大陸の東に位置する帝都、ヴォルノグラード。
空はどんよりと曇り、低く垂れ込めた雲が広がっている。街の中心部は整然としており、石畳の大通りには堅牢な建物が立ち並び、冷たい空気が肌を刺した。
「やっと着いたな。なんだか、暗いところだな」
俺の最初の感想だ。
道中、ゆっくりと移動していたため、帝都への到着にはかなりの時間を要した。途中の近郊の町々では、皇帝の軍がすでに派遣され、各地で独自の動きを見せていた。ただの警備ではなく、明確な目的を持って行動していることがうかがえた。
「この帝国の西地区は、他の地域と比べると比較的豊かで、人口も多いわ。しかも、独立心の強い領主が何人もいるの」
レイラが教えてくれた。
「それで、奴らはそいつらを制圧しに回ってるってことか?」
「そうね。『俺たちの後ろには、ヴァルターク王国のレイラもついてる』って感じで。要するに、皇帝の名のもとに従えってことよ。この地区は王国の影響が強いし、私のところにも、真実を確かめに来る者がいるわ」
「つまり、政治的に利用されてるんだな」
「何言ってるの、リド。私の存在なんて、最初からそんなものよ。気にしてくれるのは、あなただけだよ」
レイラは笑った。しかし、その笑顔には割り切ったような諦めが滲んでいた。
それから数日後、帝都ではアレクセイの戴冠式が盛大に執り行われた。
荘厳な城の広間に集まったのは、帝国各地の諸侯や有力者たち。天井の高い大広間には金色の装飾が施され、厳かな雰囲気が漂う。その中心で、アレクセイは新たな皇帝としての戴冠を受けた。
『ヴァルターク王国に、いや、レイラに認められた皇帝アレクセイ』
その言葉が、誰からともなく囁かれた。
戴冠式には帝国内外の貴族が集められ、アレクセイの威信を示す場となった。そして、彼を皇帝に押し上げた論功行賞として、多くの者に叙勲と褒章が授与された。
「帝国の新たな時代だ。これからも頼む」
若き皇帝は朗らかに宣言した。彼の目的は、ついに達成されたかのように思えた。
式典の後には、民衆へのお披露目として盛大なパレードが行われた。帝都の大通りを進む華やかな行列は、皇帝の権威を示すものだった。警備は厳重に敷かれ、沿道には多くの民衆が詰めかけていた。
その一方で、モルガンたちの一行もすでに帝都に到着し、陰ながらレイラの警備をしていた。彼らからもたらされる報告では、帝国の警備も周到な手配がなされているように見えた。
俺は御者として彼女の馬車を操りながら、周囲に気を配り続けていた。
ヴォルノグラードの城へ戻る帰路——。
その時、事件は起きた。
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