アレクセイ皇帝
ヴァルターク王国謁見の間。リュカ国王に、アレクセイ皇帝が会いにきていた。
「ご拝謁できて、光栄です」 「こちらこそ、久しぶりだな、アレクセイ」
皇帝アレクセイは若い。まだ十代半ばで、肌は白く、金髪碧眼。体躯はしっかりしており、俺とあまり変わらない。
彼の随行者は多種多様だった。壮年の軍人、聡明そうな官僚、異国風の衣を纏った者。
帝国の広範な勢力を反映しているのか。特定の支持基盤を持たないとも聞くが、彼の纏う威厳と落ち着いた振る舞いは、帝国の未来を背負う者の風格を感じさせた。
「有能な人材を抱えているようだな」 「リュカ国王には及びませんが、皆、私に尽くしてくれています」
互いに礼儀を交わすと、アレクセイの視線がふとレイラに向けられた。それは意図的なものなのか、それとも無意識のものなのか。
「ようやく、ここに辿り着きました。色々とご心配をかけましたが、帝国はもう大丈夫です」
オルフィン侯爵の内政干渉の件を指しているのだろう。彼の声は穏やかだが、その言葉の端々に鋭さが滲んでいる。
「それは何よりです、アレクセイ」 「はい」
レイラが微笑むと、アレクセイは一瞬、戸惑うように視線を逸らし、次いで照れくさそうな笑顔を浮かべた。まるで長い間会えなかった先生に褒められた生徒のように。
「さて、場所を移そう」
公式な謁見の場はすぐに終わり、国王と皇帝、宰相であるレイラ、側近数名と俺で秘密会談が行われた。
「それで、アレクセイ。お前の要望を聞こうじゃないか? こちらも迷惑をかけたみたいだしな」
リュカ国王が口火を切る。
「……」
「遠慮せずとも良い!」
「それでは、帝国が共和国の庇護下にある現状についてですが」
「対等な関係になりたいのか?」
魔物の脅威が無くなった今、共和国側にかかる負担は大きい。レイラの施策で経済は好調だが、それでも支出の多さは国を圧迫しているので、こちらとしては、主従関係を解消したい。
「そのままでも構いません」
アレクセイの提案は予想外だった。
「じゃあ、何を望む?」
オルフィン侯爵への叱責か、それとも王国への非難か。緊張が場を支配する中、アレクセイが静かに口を開いた。
「それでは、申し上げます」
彼の表情が一変し、真剣な面持ちで言葉を続けた。
「レイラ様をお借りしたい」
リュカ国王は一瞬、レイラの顔を見た。彼女はわずかに目を伏せ、沈思する。静寂が落ちる。やがて、彼女は静かに頷いた。
「良かろう。だが、我が国にとって大事な人材だ。護衛は付けさせてもらうぞ!」
「ありがとうございます」
アレクセイは満面の笑みを浮かべた。しかし、その笑顔の奥には、抑えきれない何かが滲んでいた。
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