帝国の皇帝
「おい! エルダ。出かける前に吸い取っただろうが! しかも大量に!」
「そうだったかな。わしもいろいろと魔力を使ってしまってな。普通は、お前みたいに無尽蔵に湧いてくるものではないからのう」
エルダはしらばっくれているが、その顔にはうっすらと笑みが浮かんでいる。
「まあ、怒るな。その代わり、お前の欲しがっていたものをやろう。貴重なものだぞ」
そう言って、エルダが机の上にすっと置いたのは、例の指輪だった。
「おお、これが欲しかったんだ! これで、レイラを守れる」
俺は指輪を拾い上げ、大事にポケットへとしまった。
「ははは、わしに感謝するがよい。魔力を吸い取るときに、すでに設定しておいたからな。だから文句は言うな」
俺は街での買い出しを早々に済ませ、家へと急いだ。
レイラに会いたかった。いや、それだけでは足りない。会うだけでは満たされない。
家に戻ると、レイラはつまらなさそうに椅子に腰掛け、ぼんやりと外を眺めていた。しかし、俺の気配に気づくと、顔を上げてこちらを見た。
「遅かったね」
「悪い、ちょっと色々あってな」
そう言いながら、俺はポケットから指輪を取り出し、レイラの指にはめた。
「氷雪の魔女ね、そういえば顔色が悪いわ。ゆっくり眠って」
「いいや、反対だ。今日はお前を眠らせないよ」
※
氷雪島にも、長い冬が終わり、春が訪れていた。
ヴァルターク王国の属国である帝国もまた、内戦状態に陥っていた。皇帝が亡くなり、後継者争いが続いていた。
皇帝の突然の死には、連合王国や悪魔の影響も疑われたが、真実は不明のままだ。
疫病の流行や大飢饉を、王国の援助によって救われた帝国は、レイラの指導により数年で立ち直った。
「王国として、表だった内政干渉はしない」
後継者争いには、数多くいる皇太子や皇女がしのぎを削っていた。
だが、勝ち上がり、皇帝の座に着いたのは、母親が身分の低い極東出身の末子であった。名は、アレクセイ。
ヴァルターク王国東部侯爵オルフィン侯爵が影で援助していた第二皇子は、戦いに敗れて亡命してきていた。
「ドラゴンが現れて、我らの士気を砕いたのだ」第二皇子は、優秀な男ではあるが、そのように言い訳をした。
ティアが、そんなことをした事実は無い。別のドラゴンだろう。ドラゴンを従える皇帝。
そのアレクセイが、ヴァルターク王国にやってくる。
「リュカ国王からも、同席して欲しいって言われてるのよ!」
全ての指示を、水晶玉を通じて行ってきたレイラが、深い溜息をついて俺に言った。
「何の用件だ?」
「ヴァルターク王国からの独立かな?」
しかし、その会談で、皇帝アレクセイから出された言葉は、予想外のものだった。
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