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ひとつの卵

 古びた店の奥で、エルダは静かに魔道具を並べ、手早く動作を確認していた。 棚には無造作に置かれた古書や、使い込まれた道具が並んでいる。


「こっちから行こうと思ってたんだが、手間が省けたねぇ。あの女は一緒じゃないのかい?」

「ああ」

 エルダは魔道具を手早く片付け、指で席を示す。俺が腰を下ろすと、彼女は裏の部屋へ引っ込み、やがてティーセットを持って戻ってきた。


「まあ、たまにはゆっくりしていけ。どうせお前も暇なんだろう?」

「そうだな」


 注がれた紅茶を口に運ぶ。赤みを帯びた濃い琥珀色が、渋みと爽やかさを口いっぱいに広げた。


「美味いな」

「そうだろう? これでもわしは、紅茶にはうるさいからな」

 エルダは満足げに微笑んだ。その表情はどこか安心感を与えるが、一瞬のうちに鋭さを帯び、俺をじっと見つめる。


「……話を聞こうじゃないか。変な匂いもついてるしな」

 俺は、島を出てからの出来事を話した。

「ほう、お前の元には魔女が次々と現れるな。あの女はともかく……今回は、大森林の魔女を出し抜けたか。愉快じゃ」


 エルダは楽しげに笑う。しかし、その奥には冷徹な何かが潜んでいる。

「今回ということは、前にも俺のような者がいたのか?」

「何を今さら言っておる」

 エルダの笑顔がわずかに険しくなる。


「お前が持っておる武器、それを作ったのはお前の父親だ。そして、わしの夫も手を貸した。もちろんわしもな」


 その言葉に、俺の心臓が大きく跳ねた。

 父親——ただ、その言葉が出るだけで心の中に渦巻く感情がある。レイラがこのことを知っていたなら、どうして俺には話さなかったんだろう。……だが、それが彼女の判断ならば、確かめる必要はないのかもしれない。


「……やはりな。この武器や防具は、ここで作ったんだな?」

「ははは、所詮、魔術師と戦士の手によるものだがな。だが、氷雪島のダンジョンでしか取れぬ素材こそが貴重なのだ。わしら魔女は結界の影響で入れない」

「だから前に、俺に魔石を取りに行かせたのか?」

「そういうことじゃ」


 だが、ひとつの疑問が残る。

「……レイラは入れたぞ」

 エルダが一瞬動きを止め、じっと俺を見つめる。

「……おいおい、何を言っておる。あの女は魔女のようでいて、魔女ではない。特異な存在だ」


 俺の頭に疑問が渦巻く。

「どういう意味だ?」

 エルダはゆっくりと紅茶を口にし、俺に視線を合わせる。その瞳には、鋭いものが宿っていた。


「わしらは、この世界の一部に干渉する……だが、あの女は、この世界のすべてに対抗する」

 その言葉が頭の中で何度も反響する。

「そんな力は無いと思うが?」


 エルダは、わずかに息を吐き、慎重に言葉を選ぶように続けた。


「……お前の父は、ただの戦士ではなかった。お前の魔力、力、そして……あの女の異世界の知識。さらに——巻き戻しの力を持っていた」


 胸の中で、何かがはっきりと繋がる。すべてが理解できたわけではない。だが、確信に近いものが俺の中で固まっていく。


「……つまり……!」


 言葉が出るか出ないかのうちに、すべてのピースが揃った気がした。胸が熱くなる。

 エルダは静かに頷く。その目に、一瞬の優しさが浮かぶ。


「お前とあの女は、最初から一つに繋がっていたんだよ」

 俺は、やっと真実を悟った。


「……俺たちは——二人で一つだ」


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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