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嘘つきレイラ 時をかける魔女と幼馴染の物語  作者: 織部
嘆きのレイラ

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マリスフィア侯爵領編 エピローグ

 翌日早朝、ノクスに呼ばれた。けれど、彼女からは刺々しさがまるで感じられなかった。


「レジーナから聞いた。色々とやることがあるな。間違って伝わった神の教えを正すための聖書作りや、聖職者の育成、布教活動とかな」

「こんなに社会に関わろうとする魔女には、初めて会ったよ」


 俺は率直な感想を口にした。

 ノクスは静かに俺を見つめた後、小さく息をつく。


「まあな」

「もう一度言っておくわ。他の宗教との武力での争いは禁止よ。その時は、私に、王国に相談して」

 レイラはきっぱりと言う。

 ノクスは少しだけ目を細めると、ゆっくりと頷いた。


「わかっておる。約束しよう。我が神は寛容なのだ。ただ、問題が一つある」

「何だ?」

「ルクスのことだ。奴に、我が聖女としての教えを指導できんことだ」

 ノクスの言葉に、俺は一瞬だけ眉を寄せた。


「それは仕方ないだろう。まさか殺して、他の器でも探すつもりか?」

「馬鹿なことを言うな」

 ノクスは呆れたように吐き捨てたが、その表情にはわずかに思案の色が滲んでいた。


「ルクスは、我が神の住まう地より流れ着いた者。あの純真無垢な魂。そして、あの吸収力――」

 ノクスは一瞬、言葉を切る。そして、じっとレイラを見つめた。


「……同じ力を持っておっても、そこの魔女とは魂の色が違う!」


レイラの眉がぴくりと動いた。むっとして、即座に反論する。


「一言余分よ、ノクス。ただの自慢じゃない。そんなの、貴女が指導者を育てるだけの話でしょ? ルクスだって、貴女とずっと一緒なら、くすんだ魂になるわ!」


 ノクスは一瞬、目を見開いた。しかし、すぐにふっと笑う。


「はっはっは、その通りだな。幸せな子供時代を過ごさせてやらねばな」


 *


 王城の庭では、ナッシュ兄妹がルクスと遊んでいた。楽しげな声が響き、柔らかな陽光の下で、まるで普通の子供たちのように笑い合っている。ナッシュ兄妹もこの地に残すことにした。


 ハーゲン子爵は、穏やかな目でその様子を眺めていた。ふと、彼が静かに微笑むのが見えた。孫を見守る祖父のような、優しい眼差しだった。

 庭に吹く風は心地よく、子供たちの笑い声を運んでいく。


 ***


「それじゃあ、帰ります」

 レイラがマルコとハーゲン子爵に告げると、俺は彼女の手を取り、ティアの背に乗せた。

 ティアが軽く翼を広げると、風が周囲の草を揺らす。

 俺とレイラ、二人だけになった。


 海賊島に立ち寄ると、エーリヒとナイアの姿が見えた。

 二人は海岸で波と戯れ、時折、何かを拾っては笑い合っている。その様子は、まるで昔からそこにいたかのように自然で、穏やかだった。

 それから、二人はお互いの手を取り合い、波打ち際を駆けていく。

 レイラがその光景を見て、満足げに呟く。

「問題なさそうね!」


 俺も微笑みながら、ティアの背を軽く叩いた。

 ティアが翼をはためかせ、大森林を越えて飛ぶ。

 眼下には森の奥にそびえ立つ塔が見えた。陽の光を受け、白い石壁がかすかに輝いている。

 塔の上から、大森林の魔女が俺たちを見つめていた。


 俺たちの安全を喜んでいるように。


 ***


 王城での面談を終えた後、一目散に北の氷雪の孤島へ向かった。


 静かな島。空は澄み渡り、冷たい風が頬を撫でる。遠くで氷が軋む音がする。

何もない島。それが心地よかった。


 白い氷雪と蒼い空だけが広がり、俺とレイラは波の音を聞きながら静かに過ごしていた。

 次第に、空が青から橙に染まり始める。


「寒くなる。家に入ろう」



 二人だけの家への帰り道



 多くの戦いを終え、ようやくたどり着いた場所に。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。長くなってしまった、マリスフィア侯爵編終了です。是非ともご評価、ご感想をお願いします。創作の意欲になります。

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