内戦の終わり
私は、セーヴァス城に戻り、マルコとハーゲン子爵に戦の顛末を伝えた。
「マルコをセーヴァスの新たな侯爵に任命します。正式な式典は、改めて王都で行う予定です。ハーゲン子爵には引き続き補佐をお願いしたい。そして、戦後処理では信賞必罰を徹底してください」
「承知しました」
二人にとって、セーヴァス侯爵の死はある程度予測していたことなのだろう。だが、マルコが新たに侯爵に任命されるという重みを感じているのか、その顔にはやや緊張の色が見て取れた。
「それから、新たに東方聖教会を街に建て、現在の教会は元の教徒たちのために修繕します。信仰を理由にした他教徒への差別は処罰の対象です」
「この土地には、昔から多くの民族が移り住んできました。一時期は、無理やり改宗させられたり、暴力的な排斥も行われていました」
「ええ。だからこそ、今こそ正す時です。モルガンとレジーナをしばらく残しますので、彼らの要望を聞いてください。ハーゲン子爵、ルクスを預けます」
「私に務まるでしょうか?」
「大丈夫ですよ。その代わり、レジーナたちもしばらくお世話になります」
戦闘はすでに終結していた。城の周囲は静けさを取り戻し、反乱軍もセーヴァス侯爵の死を知ると次々と降伏し、組織として崩壊したらしい。そして、セオとクレオンが並んで帰城してきた。
「レイラ様、ただいま戻りました」
二人は戦場の気配を纏いながらも、どこか楽しげに微笑んでいる。その顔には、戦の終結に安堵した様子が見えた。
「ご苦労さま。報告書をまとめておいてちょうだい。悪いけど、王国騎士団は明日には共和国へ向かってもらうわ。クレオンも海軍を率いて共和国の沖へ」
「目的地はどちらでしょうか?」
「もちろん、姉さんのところよ。ヴァルターク王国の国軍が派遣されたのは、姉の一族の安全を確保するためだから。ドラムから共和国の情報を聞いて、うまく立ち回ってね」
「レイラ様は行かれないのですか?」
「同盟国とはいえ、今の私が行くのはまずいわ。一度、王都に戻る」
「残念です」セオが肩を落とす。
「ははは、私が一緒だから、我慢しろ!」クレオンが肩を叩いて笑った。
そのやり取りに、私は少しだけ肩の力を抜いて微笑んだ。
みんなに指示を与え終わると、小腹を満たしに食堂に向かうことにした。焼けた魚と肉の香りが、空腹を刺激する。食堂内では、賑やかな声が響き渡っていた。
モルガンとナッシュ兄妹、そしてルクスが楽しげに食事をしている様子が見えた。ルクスの表情がわずかに揺れているのを私は嬉しく思った。
「あ! レイラ様の分のお食事を準備しますね」何故か、レジーナがメイド服を着て給仕をしている。
「リドは?」
私が席に着くと、料理人が両手に焼いた魚と肉の皿を持って現れた。その後ろから、リドリーが顔を出す。
「料理が待ちきれなくてな。焼いて、簡単に味付けしただけだ!」
リドリーがうれしそうに言うが、その目はどこか少年のような輝きと悪戯がばれたような気まずさを隠していた。
「本当に簡単な味付けね」
「悪いな」
「ううん、リド、あなたらしい、素直で優しい味だわ。今日はお腹いっぱい食べても止めないわよ!」
「何だ! 焦る必要なかったな!」
リドリーは、私の隣に座ると食事をしそうに頬張り始めた。
その表情はまるで、子供のころと変わらない。こうして隣に座り、食卓を囲むだけで、懐かしさと温かさが、私の胸に満ちていった。
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