旅立ち
最後の春が来た。俺は、旅立つ準備を始めた。
ティオスは、体調が悪いらしく、たまにしか島に来れなくなっていた。
「ティオス、もう大丈夫だ」無理に島にこようとする老人に断りを入れた。
俺は、魔石を見つけて、ティアに乗り、エルダの店で売り、必要な物を買い込んだ。
街の雰囲気は、騒がしさが一段落していた。しかし、人に聴かれまいとする小声の会話が聴こえる。
「レイラ王女が即位する。もうこの国は終わりだ」
「第二王子は、脱獄に成功したらしい。希望はある」
「魔物の出没が、酷いらしい」
俺は、一人でいつもの酒屋にやってきた。
「王女の誕生日に、決行するらしいぞ」
「しかし、大陸随一の王国軍がいるだろう」
「いや、魔物の討伐に行っているから、殆ど王都にはいないらしい」
「急がないと、ここからでは間に合わないぞ、どうする? だが、市民だけで勝てるのか?」
俺は、会話をしている男達に、素性を明かして、酒を奢り計画を聞いた。恐るべき計画だった。焦りは禁物だ。
「わかった」
だが、俺は、一度、島に戻ることにした。
俺は、今まで以上に真剣に、剣の修行に取り組んだ。
そして、最後の夏を迎えた。
「行こう。ティア、ついてきてくれるか」
ティアは、立派な大人の羽を広げて、答えを返してきた。
旅立つ前に、ティオスの家に向かった。この地に来て、初めてだった。
「ティオス、いるか?」
「ああ」寝室から、小さな声が返ってきた。
「すまんな、島にも行けず」痩せ細り、見る影も無かった。
「いやいい。それより大事な話だ。悪いが、約束は反故にさせてもらう」
「もうすぐだぞ。罪人で無くなるまで」最後の気力を振り絞って彼は叫んだ。
「今までありがとう。ここで動かなければ生きている価値がない」
「そうか、じゃあ、これが19歳の誕生日のお祝いだ」彼は大切そうに、震える手で、ペンダントを手渡し、そして、死んだ。
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