死にたがりのレイラ 2
レイラは俺の腕の中で目を閉じた。胸から流れる血が、温もりを奪っていく。それでも彼女は、どこか安らいだような顔をしていた。死の瀬戸際だというのに――
「リド……」
かすれた声が俺の胸に届く。
「死にたがりだな、レイラは」
俺は必死に治癒魔法を施した。魔法の光が彼女の体に広がり、血が止まり、傷がゆっくりと塞がっていく。だが、まだ油断はできない。俺は彼女をしっかりと抱きしめながら、魔力を注ぎ続けた。絶対に、彼女を失うわけにはいかない。
ふと、レイラがわずかに視線を動かす。俺が彼女の目線の先を見ると、そこには、地面に倒れたノクスの姿があった。意識を失ったのか、その目は閉じられ、動く気配もない。
だが――何かがおかしい。
ノクスの体から、膨大な魔力が消えていた。完全に。微塵も残らず。
「……これは?」
思わず声を上げた瞬間、ノクスの体が光を放った。
輪郭が揺らぎ、姿が変わり始める。冷徹な魔女の顔が薄れ、代わりに現れたのは――かつて俺が知っていた、ルクスの姿だった。
「ルクス……?」 レイラが驚愕の声を漏らす。まさか、そんなはずはない。
「レイラ、やめろ」俺は強く言った。「こいつは今、ノクスじゃない。ルクスだ」
「ええ、だから今殺すしかない。ノクスが意識を失っている間に」
レイラの手には、俺の短剣が握られていた。指が白くなるほど強く、決して離すまいとするように。彼女の瞳には、揺るぎない覚悟が宿っていた。
俺は彼女の腕を掴み、強く引き止める。
「殺す必要はない。もし殺さなければならない時が来たら、俺がやる」
しばらく沈黙が続いた。レイラは短剣を握ったまま、俺を見つめる。その目の奥には、まだ迷いと怒りが渦巻いていた。だが、やがて彼女はゆっくりと短剣を下ろす。そして、深く息を吐くと、無言のまま俺に剣を返した。
そして、再び崩れ落ちて、俺は受け止め抱き上げた。納得したわけではないだろうが、彼女の手で殺しはさせない。
その時、上空でティアが大きく旋回し、再び魔力を放ち始めた。
「ティア…!」
俺が叫ぶと、ティアは即座に反応し、火穿竜に向かって氷の息を一気に解き放つ。
火穿竜も対抗して氷を放つが、その威力は圧倒的に違う。冷気が竜の全身を包み込み、その動きを一瞬で鈍らせる。竜は必死に爪を地面に引っかけ、凍りつく前に地下へ逃げようとするが、その動きも徐々に鈍くなり、力を失っていった。ティアはその隙を見逃さなかった。素早く近づき、氷のように冷徹な一撃を竜の全身に加えた。
『小僧のお前とは格が違う』とでも言いたげに、ティアは雄叫びを上げ、その巨大な力を見せつける。
火穿竜は必死に反抗しようとするが、氷の冷気がその体を覆い尽くし、動けなくなった。地下へ逃げようとする竜を無理矢理引き摺り出し、凍りつかせる。その瞬間、竜の吠え声が凍り、冷気に飲み込まれ沈黙した。
「終わりだ」
俺の呟きが空気に響くと同時に、火穿竜の魔力は完全に封じ込められ、動きが止まった。ティアは誇らしげに空を舞い、勝利の余韻に浸る。強さを示したその姿は、まるで戦場の女王のようだった。
ティアは、氷の塊となった火穿竜を両足で掴むと、北方の氷雪島に向かって飛び去っていった。
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