ルミナとノクス
レイラ視点
レイラ視点
私はティアの背に乗り、戦いの状況を見ていた。腕の中でルミナが目を覚ます。この子から感じる異質な存在への脅威が消えることはない。
セーヴァス城の戦闘は、セオ率いる王国騎士団が到着し、マリスフィア侯爵軍を夜襲と城兵との挟み撃ちで壊滅的な敗北に追い込んだはずだ。内戦は避けたかったが、内憂を残せば将来的な被害が大きくなる。仕方がない。
レジーナやモルガンが近衞騎士団を率いて教会に駆けつけ、ゾンビの掃討を進めている。これでティアは火穿竜との戦いに参戦でき、リドはマリスフィア侯爵との戦いに集中できるだろう。
勝てる。だが、違和感は拭えない。
ルミナが微睡の表情で私を見る。彼女の瞳が、怪しく光った。
「起きたの?」
「ああ」
彼女の中にいる何者かが答えた。
ルミナは私の首に両手を回して上体を起こす。地上の状況を興味深げに眺め、ふっと笑ったように見えた。
月夜に照らされると、ルミナの瞳が一回り大きくなる。とたんに、彼女の中からとてつもない魔力が湧き出してきた。
「あなた、一体何者?」
私が驚いて尋ねると、
「お前達は警戒心が無さすぎる。強者の驕りだな!」ルミナの手が、私の首を締め上げた。
ティアが異変に気づく。だが、どうすることもできない。
「アイスドラゴンよ、下手な動きはするな。この女が死ぬぞ!」
私達は、ティアの攻撃の死角にいる。
迷いはなかった。悟られぬように、懐の短剣を抜き、彼女を刺す。
だが、刺したはずなのに――感触がない。
「そんなおもちゃで目覚めた私を殺せるとでも?」
ルミナは首から手を離し、胸に刺さった短剣を抜く。代わりに、それを私の首へと押し当てた。
ごほっ、ごほっ。咽せながら息を吸う。
「あなた……魔女なの?」
「お前に名前を聞かれるとは光栄だな」
ルミナの口元が歪む。
「私はお前ほど有名な魔女ではない。静かに暮らすのが信条だからな。だが、聖女である私を”暗黒の魔女ノクス”と呼ぶ者がいる」
ノクスが私を見据え、皮肉げに微笑む。
「だから私は、魔女と呼ばれるのが嫌いだ。お前もそうだろう?」
「……そうね。悪かったわ」
魔女であることは間違いない。だが、それを隠していたのか? 違う――覚醒していなかったのだ。
それは、新たな骸に取り憑いたからなのか?
「謝ることはない。いや、むしろ謝るのは私の方だ」ノクスは、まるで楽しげに言葉を紡ぐ。
「お前の運命はここで終わるのだからな。……待てよ、違うな。むしろ感謝されるべきか?」
ノクスが短剣を押しつける力を強める。
「苦しみの円環から解放してやるのだからな!」
私を殺すのか?
だが、それでは時間が巻き戻るだけ――
思考が巡る。私は彼女の言わんとすることが理解できなかった。
「ん? ああ、わからないだろうな」 ノクスの目が細まる。
「最後だから教えてやろう」
彼女の中にある、もう一つの心臓が脈打つ音が、私の耳にまで響いてくる。
「お前の権能は、私の前では通じないのだ」
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