動揺によるものかあるいは。
「あるいは」ってかっこいいよね
クラスがざわついている。筒香はそもそも友人がいなかったこともあり、転校から三日も経つと誰も話さなくなっていった。俺はそれを複雑な気持ちで見守っていた。
そして、筒香が転校してくる日がやってきた。クラスの男子が浮足立っているのが分かる。転校と女子は古典的なエロゲなら絶対外せないセットだ。
「とんでもない美少女がくるらしい。」
今日の朝陽キャたちが、大声で吹聴していた話だ。全くどこから仕入れてくる話なのか。事実としてみんなの期待を上回るほど可愛いのは間違いない。だからと言って無遠慮に他人を値踏みするなんて良くないことだ。
教室が静かにならないことを把握した先生がため息をつきながら、筒香を呼んだ。教室のドアが開き、みんなが息をのむのが分かった。昨日も一昨日も通話をしていた俺は少し誇らしい気持ちになったが、平静を装う。
「はじめまして。筒香玲奈です。趣味はゲームで好きなジャンルはRPGとFPSです。」
二秒ほどの間を開けて質問が始まった。探り探りだった質問も、オタク趣味が明るみになりどんどんヒートアップしていった。
「筒香君とは知合いですか?」
「いとこですよ。誕生日も同じです。」
用意していたであろう回答を並べていく。はきはき喋る様は何というか絵になっている。無垢でありながらも勝気そうな大きな目をしていて、唇も艶やか、これでもしノーメイクなら学校中の人間の度肝を抜くことになるだろう。
「彼氏はいるんですか?」
「いません。」
「じゃあ俺と付き合ってください。」
「……えっ」
筒香はとても驚いた顔をしていた。妙な沈黙に焦りを覚える。いや、お前男だっただろ。ノータイムで断れよ。矢口君、あれ、ワンチャンある?って顔してるぞ。矢口君は男子にいじられるムードメーカーで、告白してはフラれて、懲りないやつだ。
「ご、ごめんなさい」
「ぐはぁぁ」
今回も矢口は派手にフラれた。男子は大体みんな笑っている。俺はあんまり笑えなかった。前までは俺も筒香も笑っていたのに。動揺からかチラッとこっちを見てくる筒香に、何かが変わってしうようなざわつきを覚えた。
ーーーーーーーーーーーーー
「ナチュラルメイク、めっちゃ上手だね」
一限目の授業が終わったとき、クラスのイケイケ女子が話しかけてきた。
「あ、ありがとう」
メイクなんかしていない。でもなんか圧がすごくて、メイクなんてしてないよって言葉は飛び切りの地雷だ。未来に行かなくてもわかる。
「そうだよね?さすがにメイクしてるよね?」
肩を強く掴まれ、ずいっと顔を寄せられた。
「ひぅっ、ごめんなさい。メイクしてません」
肩から手がぱっと離れた。おそるおそるぎゅっと閉じた目を開けると目の前で膝から崩れ落ちているイケイケ女子がいた。耳を寄せると
「神様って残酷。私って左手で書かれてたの?てか「ひぅっ」ってなに?」
最近有名な曲でも聞いたのかな。
「あー、だ、大丈夫?」
「……取り合えずライン交換しよっか」
「お。おけ。あー、友達ってどうやって追加するんだっけ」
一応身バレ防止のために新しいスマホに変えてもらった。そもそも慣れていないこともあり少してこずってしまった。
「え?私を含めて友達11人?」
「人生って色々あるでしょ?」
今度はこっちから強く肩を掴んだ。どれだけ温厚な俺でも許せないこともある。というか11人は少なくないでしょ。こちとら二桁にするために公式ラインも友達追加したんだからね。
「あ、うん。そうだね。」
二年間登校して一人しか増えなかった友達が、美少女になったことで初登校日に二人に増えた。これが美少女か。少し複雑だけど、それでも友達が増えると嬉しい。ニマニマが隠せないくらいには、嬉しい。
ブックマークや感想など、もし頂ければ嬉しいです。