病院と友人
分岐だったのよ
これを見てリラックスしろよ、という意思が透けてくる観葉植物を見て、昔40°の熱で死にそうになった時のことを思い出した。
「大丈夫よ、友達と会いたくないんだったら転校してもいいし、人生何とでもなるわ。お医者さんにも分からないことくらいあるわよ。」
「あ、うん。そう、だよね。」
親が心配してくれていることが伝わってくる。全く実感が湧かない。人生には色々あるとは思っていたが、これは想定外というかなんというか。
原因不明。DNA鑑定の結果すら即日では出ず、結果が届くまで一週間ほどかかるらしい.経過観察のために入院するか、定期的に通うかを選ばさせられたが、通うことにした。
「いやそんなことある?」
「あったんだから仕方ないでしょ」
事実は覆らないから事実なのだ。真実とは解釈が入っており、人によって姿を変える。ふとアフロすら似合ってしまう人気俳優を思い出した。
「なんだかなぁ、一人称も変えたほうがいいかな?」
「あらうちの子って意外とたくましいのね。お母さん鼻が高いわ」
探り探りだ。何もかも。
「……学校はどうする?転校する?それとも事情も説明してから行く?」
「……そんなのわからないよ。どうすればいいと思う?」
母親の優柔不断さには時々イラっとしていたが、もしかしたら遺伝しているのかもしれない。何が正解なのか分からない。
「前例がないらしいからね。私なら転校するんじゃないかしら。好機の目って怖いわよ」
「ちょっと、友達に相談してみる」
「変な男に相談して怪しいことさせられそうになったらすぐに私に言いなさい」
「人を見る目は持ってるつもりだよ」
微笑ましく思われていることを自覚しながらも生意気なことを言ってしまう。
「あ、でも明日も休みたい、かなぁ」
親の顔色を伺いながら言ってみる。
「いつもなら行きなさいって言うんだけどね。明日は学校や市役所にも色々確認しにいかないとよね。良いわよ。休みなさい」
少し呆れた母の顔を見て、なんだか申し訳ない気持ちになった。
ーーーーーーーーーーーーー
友達の定義って何だと思う?
今日休んでいた筒香からラインが来た。なんと返事をするべきだろうか。先日の誤解も可能なら解いておきたいし、安否確認もしておきたい。もうややこしいし電話してみるか。
ごめん。今はちょっと電話には出られない。
おけ。
友達の定義は、「こいつとは友達だ」って思ったら友達なんじゃないか?
てか今日休んでたけど大丈夫か?
既読がすぐにつく。良かった。絶交を言い渡されることはなさそうだ。返事が遅いから長文でも打っているのかなと思い待っていると電話がかかってきた。筒香からだ。
「もしもし?」
「…………」
「もしもし?」
「……も、もしもし」
「えっと、彼女さん?」
「あー。いやちがくて」
「筒香のお母さん?それともスマホを拾った人、ですか?」
「あー、本人、なん、だよね」
ほんにん。グーグーで検索してみるも本人の意味は一つしか出てこない。つまり
「両声類というジャンルになったのか?」
「あー、違くて、もういいや、ビデオ通話しよう」
画面には、テレビの中でしか見たことのない美少女が映っていた。髪にはいっちょ前にインナーカラーが入っており、なんか、なんか凄くイイ。
「これが俺、筒香、女になっちゃったんだよ」
「……なるほど?」
一気に二年後とかにして、何かの拍子に美少女が元友人だったってことが分かって、「えぇ、もう大好きになっちゃってるんだけど」を後出しにしてオトナな苦悩と儚い恋にするか、めちゃくちゃ悩んだ。
だから投稿が遅い!という言い訳をさせてほしい。