親のカッコ良さとか飯の美味さとか
俺の人生の中で、ここまで早く階段を下りたことが一度でもあっただろうか。いやない。朝に限らず、自分の部屋から出るのは常々億劫だと感じているし、こけずに降りられたことは間違いなく奇跡に当たる。もう本当に「イッツアミラクル」なんてね。ははっ。
「ちょっと!母さん!起きて!」
ドンドンと強く襖のドアを叩く。
「うるさい、もうなに?……誰?」
「いや、俺だよ、れーくん!あっ、分からないよね、分かるよその気持ち、いや俺も何が何だかというか」
まずいっ、お決まりのやつだ!最悪の場合、戸籍無し家無しのエロ同人系の美少女になっちゃう!
「あのその違くて」
「あー、本当にれーくんなんだね」
「そう!そうなんだよ!」
「分かったから落ち着いて、今日は病院に行こうね。学校には連絡を入れておくから。」
「う、うん、ありがとう」
いつものほほんとしている母だけど、今日はとても頼りになる大人だ。大人ってすごいや。母さんが難しそうな顔をして、スマホに恐らく今日やることをメモしている。
「うーん、現実は小説より奇なり、かぁ」
ライトノベルが好きな人なら、一度はお目にかかりたいセリフだよねそれ。でも実際に体験すると分かる。
「憧れは理解からもっとも遠い感情だよ」という言葉の意味がね!
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筒香が休んだ。少しありがたくはある。あのBSS(僕が先に好きだったのに)を体現したような顔を見てしまった手前、何を話せばよいのか正直分からない。
頭が筒香のことで一杯で、学食の味も分からない。
「あれ?今日は一人なんだ?」
正面から優香が話しかけてくる。
「そうだよ。筒香は体調が悪いみたいだ」
「体調が悪い、ねぇ」
元はと言えばお前のせいなんだぞと言ってやりたいが、知ったら絶対に筒香が傷付くので言わない。
「ふつつか君が休んだらボッチ飯か。あんたって本当に友達がいないのね」
お前も友達ほとんど居ないだろ。この前エゲつない噂聞いたぞ。
「何か問題でも?全然かっちーん来てるけど」
「ごめんごめん、今度ご飯でも奢るわ。私は、友達が!待ってるからじゃあね」
優香はスキップでも始めそうな浮かれた顔で友人のところへ戻っていった。
優香の性格の悪さに唖然とした後、優香のせいできつねうどんが冷めてはたまったものではないと麺をすする。
「……美味いな」
人と話すことでご飯が美味しくなる。状況が変わるかどうかではない。ただ話すだけで味覚が戻ってくることもあるのだ。
「人生って深いな」
俺は少しだけ大人になった気がした。
人生に迷走してます。
目標は完結させることです。