色情霊撃退ビキニアーマー
「にゃぁーおぉん……」
明らかに誘い込まれている。
声のする方へと足を向けると、すぐに小福は見つかった。
しかし忠子が近づくと逃げ、見失わないギリギリの距離を保ってまた一声鳴くことを繰り返す。
(こんなこともあろうかと!)
マッピングのためにと持参した矢立を取り出した。
矢立と言えば普通は矢を入れておく道具だが、忠子が持っているのは筆箱と墨壺が一体型になった携帯筆記用具だ。前世の記憶で言えば朱肉付きの印鑑ケースが一番近い。
素早く筆を取り出して壁に×印をつけながら追いかけるうち、違和感を覚えた。
(……このお屋敷、ここまで広い……?)
確かに立派な建物ではあったけれど、歩く距離が不自然に長すぎはしないか。
同じところをぐるぐる回っているのだとしたら、印が消えていることになりこれまたおかしい。
(捕まえたいけど……人類が動物の運動能力にかなうわけないよね)
だからこそ人間は道具を発明し、罠を仕掛けたのだ。
(このままじゃ埒が明かない)
歩くスピードを落とし、とうとう立ち止まった忠子に小福は振り返って甘えた声で鳴く。
「小福ちゃん、私、ちょっと疲れちゃった。休憩しましょうよ。……ね?」
小福がぷいとそっぽを向いて先に行こうとする瞬間、小袖の袷に指を引っ掛けて軽く下げてみた。
それだけでむっちりとした胸の谷間が微かに覗く。
「にゃっ?!」
こうかはばつぐんだ!
ヒゲも尻尾もピンと立っているし、瞳孔が真ん丸になっているのは興味津々の証拠だ。
色仕掛けとか初めてやった。しかも相手は猫である。はっきり言って死ぬほど恥ずかしい。
しかしおかしくなってからの小福は忠子だけでなく女房たちの胸に並々ならぬ執着を示していた。
(もし怪異なら、執着するものに対して抵抗することはできないはず!)
やや勢いをつけて前屈みになり、重力に従ってゆさっと揺れたFカップを両腕で挟み込むと着物の合わせ目からたわわすぎる白い肉がはみ出しそうになった。
マンガだったらウッフ~ンとか古臭い擬音が描かれそうな絵面だがこれ以上できないので仕方がない。
だが、効果は抜群であった。
「にゃ……っ、に゛ゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あー!」
正に猫まっしぐら。しかしドドドドドドドドドとか猫にあるまじき足音が響いているし、小福の背後には目尻を下げ鼻の穴を膨らませ、舌まで出してハアハアと荒い息をつくスケベじじいの幻影がはっきりと見えた。
(ひいいいいいい!)
はっきり言って気持ち悪すぎる。逃げたいがここが踏ん張りどころと、忠子は涙目になりながらも両腕を広げた。
「さ、さあっ、く、来るなら来いっ!」
「に゛ゃあ゛ぅぉおああおおおああ~んッ♡」
世にも不気味な声を上げて超邪な塊が欲望の象徴へと勢いよく飛び込んだ、その瞬間である。
ごんっ!
「に゛ゃっ?!」
おっぱいにあるまじき硬質の音が響いた。
飛びついた小福は何が起こったか分からないという顔で床に落ち、ヘソ天となって目を回している。
「み……っ、見たか、ひ、必殺、色情霊撃退ビキニアーマー…」
谷間だけは見えるようにしてあるが、巨乳の大部分は木製のブラでガードされている。素材は非常に硬いと名高いケヤキ材だ。
職人が「こんなもん何に使うんだ……」と首を傾げながらもしっかりした仕事をしてくれたそれに、小福は力の限り飛び込んで頭をぶつけたのだ。
全力の助走までつけた猫の脚力で飛びつけばその衝撃たるやかなりのものだろう。
あまりの勢いに忠子も息が詰まった。
(ぐふってなったぞ、今……防弾チョッキ着てても衝撃はあるって、こういうことなんだ……)
咳き込みながらも懐からお札を取り出し、ふわふわの額に押し当てる。魔を祓う香木の香りとともに『封』の文字が浮かび上がり、呪力で額に貼りついた。
「よし、確保!」
出発前に兼続から渡されていた呪符である。邪気に反応して封じの術が発動するというものだ。
「やっぱり今のスケベじじいが取り憑いてたっぽい?」
封呪がかかってしまえばただの猫である。中身があの色情霊だと思うと抱き上げるのは躊躇いがあったが、取り憑かれている小福に罪はない。
まだ昏倒している小福を抱き上げ、忠子は再び周囲を見回した。
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