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日本最古! なりきりメールの成立

弘子は大納言家の姫、翔子と従姉妹同士であるという。

家同士の身分はかなり違うが、同い年の二人は本当の姉妹のように育った。


「で、この翔子が鷹臣たかおみ様に夢中なの」

「でも……鷹臣様は橘の二の姫……確か亨子様のところに通ってらっしゃるんじゃ?」

「あれ、知らない? 振られまくってるの」

「へ?」


生まれながらに才も家柄も抜きん出た挙句、精進努力も欠かさない鷹臣はナチュラルな上から目線だ。

対して亨子は小野小町の再来と謳われる美女だがとにかく気が強く、口も達者で言い負かされたことはないという。


陰りが見え始めた橘という家柄をこそ大切にし、鷹臣と関係を持ち源の影響下に置かれることを決して良しとしない反骨精神が凄すぎるそうだ。


そして鷹臣はと言えば、血筋も良く関白の後ろ盾もある自分こそ才色兼備の亨子を庇護し得る存在であると自負し、公言して憚らない。


超強気と傲慢。どちらも折れない。控えめに言って相性最悪なのである。


「何度も門前払いを食らわされても諦める気配すらないのよ、これが」

「源家の御曹司に門前払い食らわすのって凄まじいかと」


(乙女ゲーにいるよね、鷹臣様……大会社の御曹司で頭脳明晰スポーツ万能な俺様キャラ)


賀茂祭で見た落ち着いた雰囲気から考えると、キラキラした学園ものよりもう少し年齢が上の職業系やり手上司とかティーンズラブの社長枠かもしれない。


「鷹臣様なら女性には不自由しないよね? 自分に靡かないから意地になってるのかな」


そして亨子はおもしれー女枠なのだろうか。


「いや、単なる無神経だね」


ここまで言い切られる鷹臣とは一体どういう人なのか。


「もう一筋ってのを通り越してると言うか、ネジが何本か飛んでるって言うか。それで困ったことに、翔子は翔子で思い込みが激しすぎるんだ」


それで伯父と一計を案じ、弘子が出仕して翔子の知名度と好感度を上げるロビー活動をしたという。

その甲斐あって文は山のように届いたが、翔子は頑なに返事を書こうとしなかった。


「でもこっちが宣伝した手前、そのまんまにするわけにもいかないよね。だからあたしが返事書いたの。代筆ってバレないように。それが……楽しかったんだよね」


自分に向けられた好意でないと分かっていても、恋心に満ち溢れた文を開き、文字を追うのはドキドキする。

自分は翔子ではないと承知しつつも、求められている姫として返事を書く。


「そうじゃないって分かり切ってても、自分が愛されてるみたいで幸せだったんだよ」


忠子は大きく頷いた。弘子の物腰は一見さっぱりしたドライな性格に見えるが、感情移入して文章を読む能力も優れているのだ。


「そうしてるうちに翔子もようやく前向きになってくれてね、今は何人かとぼちぼち文のやり取りをしてる。そしたらさ……あたし、なんだか寂しくて」

「寂しい……?」


弘子は頷いて文机に寄りかかった。

サバサバした雰囲気が、そうすると途端に切なげな色っぽさが増して不覚にもドキッとしてしまう。


「毎日数通は恋文書いてたのがなくなると何となく物足りなくなっちゃってさ。こういうのも恋愛中毒の一種なのかな」

「それで、架空の恋文を?」

「そういうこと。手が届かない人なら、実在の人物でも物語の登場人物でも同じだもん」


あくまでもおおらかであっけらかんとした弘子だが、もしかしたら翔子に文をくれる殿方の中の誰かに、本当に想いを寄せてしまっていたのかもしれない。


あるいはフィクションの恋愛にのめり込んでいたのかもしれない。


女性が、男になりきって文を書く。

弘子は頭の中で設定やストーリーラインを組み立てることができる。そして女だからこそ、言われたら嬉しい言葉を痛いほど理解している。


「それにしても、やっぱり実在の人物は洒落にならないトラブルの元だわ。これを機に絶対断ることにするよ。私文書偽造だしね」

「は、はあ……自分で言っちゃうんだ」


改めて源氏や将門の文を見てみる。どれも見事なものだ。


(これまとめたら、空想書簡集として凄い本になるなあ)


物語文庫に収蔵させてもらいたいと喉まで出かかったが、やめた。


優れたエンタメになるポテンシャルは秘めているが、これはあくまでも弘子が演じる殿方と、どこの誰とも分からないお嬢さんとの間だけで楽しまれるべきものだ。


そのルールを破ったら焼き捨てられなければならない、ギリギリの遊戯。

やり取りをしている人の中には自分がやっていることがバレたら恥ずかしさで死ぬどころか、こういう趣味が世の中にあると知られることすら苦痛だという繊細なタイプもいそうだ。


それに何より、弘子の才を悪用しようという輩が現れないとも限らない。

密書ひとつで簡単に追い落とせる世界なのだ。


「本当に凄いよ。私が騙されるぐらいだもん、紫式部や純友様だって分からないよ」

「そう? あたし死んだら地獄で文句言われるかもね」

「どうだろう? 案外褒められたりして」


ジャンルは違うが、創作に携わる女二人で笑い合う。


(この人が本気で将門様の日記風一人称小説とか書いてきたら、ありとあらゆる意味で敵わないな……滅茶苦茶読んでみたいけど)


こういう表に出ない才能もあるのだと知った。

なりきりメール編、終了です。

この弘子と名前だけ出てくる翔子の平安百合短編がこの物語のベースになっとります。

幕間ば突っ込もうかと読み直したら、季節が合わんち断念したとです。


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