貴照、雅なお詫びで逆転を目論む
「あ、あ、あ、あのもさ小娘! 告げ口しおった!! なんと賤しい、なんと小狡い! ここまで品性のない者が昇殿を許されるなど虫唾が走るわ」
貴照は送られてきた手紙を床に叩きつけた。お顔が真っ赤である。
文が局の仕切り役である明式部の代筆であることを考えると既に女御の耳にも入っているのは間違いない。
飛香舎総出で言いふらしてやると脅されたときは末端の女房の言うことなど身分のある人々が聞き入れるはずがないと高を括っていたが、本当に文車太夫は女御のお気に入りであるようだ。
謝罪は絶対にしなければならないところまで来ている。
「この私が……名門に生まれて容姿に優れ、友人も多く煌びやかな女性遍歴を持ち社交界でも花形の私が、あの、取るに足らない身分の、地味顔のオタク女に……、頭を下げる……だと?」
貴族社会は理より法より家名が優先される。
本来なら下臈の女房一人どう扱っても許される身分のはずなのに、忠子の後ろには法の遵守を尊ぶ徳子が付いていた。
「何故私が悪いのだ?! 私のお手が付くなどあのような下賤の女には泣いて喜びむしろ平伏して希うべきではないか! それを有り難がりもしないとは何たる無礼、どこか遠くでひっそり首でも吊って私の機嫌と評判を損ねたことを詫びねばならんのは向こうではないか! それが分からぬとは女御も所詮女、たかが知れておられる」
部屋の中をドスドスと品のない音を立てて歩き回るが、帝の妃から謝れと命令されたも同然なのだ。謝意を示さずには済まされない。
だが文を送れば物が残ってしまう。何としても口頭で済ませたかったが、決して飛香舎に入れてもらえはしまい。
仕事で局から出てきた忠子を捕まえようにも理知か彼に近しい人物が脇を固めていて隙がない。
「どうしたものか……」
頭を抱えた貴照の目に、歌会のお知らせが飛び込んできた。
「これでおじゃ!」
右大臣が主催する管弦と歌の宴であるから、娘である徳子とその女房たちも必ず出席する。
その席で気の利いた歌の一首も披露し、女御に贈って機嫌を取りついでに謝罪も添えればいい。
こんな雅なお詫びを突っぱねれば、風流に欠け情がこわく優しさや思いやりのない女だと非難に晒されるのは徳子の方だ。
権力は闇を生む。
光が強ければ影も濃いように、徳子の揚げ足を取るのを虎視眈々と狙っている者もうじゃうじゃいる中でならそこまで強硬な態度は取れまい。
特に弘徽殿の女御とその一派はほぼ決まっている中宮の地位を徳子から横取りすべく、鵜の目鷹の目で粗探しをし、落ち度がなければ捏造しようと隙をうかがっていると聞く。
「そうと決まればよいお和歌を考えておかねばな。素晴らしい一首を献上すれば私の品性を見直されるに違いない。帝にもお見せいただけちゃうやもしれぬ。我が才能は本物。見るべきお方の目に留まりさえすれば必ず取りたてられるに決まっておる。私、頑張るでおじゃ♡」
貴照はお手入れを欠かさない硯と筆をいそいそと取り出したのであった。
読んでくれてありがとうございました!
身分を笠に着た勘違い悪役として出したばってん、貴照可愛くなってきたばい…
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