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放火魔の噂を消して差し上げなくては……?

「ゴメン忠子、失敗しちゃった」


理知たかちかの後ろにはテヘペロという擬音が見えた。


理知がやって来たのは織子と明式部あけのしきぶと一緒におやつを頂いておしゃべりしているときだった。


貴照のやったことを許す気はないが、さすがに放火魔という噂が蔓延するのは気の毒すぎる。

それとなく誤解を解いてあげてほしいと理知に頼んだわけだが、爽やかな笑顔で失敗報告をする理知が悪いと思っていないのは明白だった。


「はあ、貴照様も対応が下手だこと……普通に文車太夫ふぐるまたゆうにこっぴどく振られたって笑い話にすれば放火魔の疑いは鎮火したのに」

「明式部様のおっしゃる通りですが、あの方にはご自分を笑うセンスが備わっていないご様子ですね」

「放っておきましょうよ、あいつのことだからどうせ余罪いっぱいあるでしょ。いい薬だわ」


理知の持ってきたおかきをポリポリ齧る織子は気楽なものだが、この炎上には彼女が一枚かんでいる。


「昨夜、飛香舎でボヤ騒ぎがあって下人が右往左往していた」という事実と、いつものように信孝と碁を打ちに出かけた織子が「ゆうべは伽羅の悪趣味な香が飛香舎ひぎょうしゃ中に漂ってきて気持ち悪かったわ! 伽羅は素敵だけどくどすぎると最悪。寒いのに御簾を全部上げて換気したのよ!」と被害報告をしたのが合わさって上がった噂の火の手だ。


館中に漂うぐらい強い、悪趣味な伽羅の香を使う人物など内裏には一人しかいない。


「あの時は必死であんなことを言ってしまいましたけど……口は禍の元なんですね」


さすがにこれで地位を失ったりすることはないだろうが、謎の罪悪感を感じずにはいられなかった。


「本当、忠子はお人好しすぎるよね」

「あんたが気に病むことなんかないわ、自業自得よ」

「そうそう、普段の行いが悪くなければここまでにはならないよ」

「でも……」


織子と理知が呆れ顔を見合わせたところに、女童めのわらわが手紙を持ってきた。噂をすれば影が差すとは言うけれど、貴照様からのものだった。


「何て書いてあるの?」


三人に見守られて文を開く。


内容としては「ちょっとふざけただけなのに大袈裟に騒ぎ立てられて非常に迷惑している。あれぐらいのことは宮中では普通です。あしらえないようではこの先やっていけませんよ。あなた程度では理解できなかった内裏の常識を教えて差し上げたのです、そのせいで上がったこちらの風評被害が消えるように鋭意努力するのが私に対する礼儀ですよ」というものだった。


「……と、書いてあります」


「何よそれ、馬鹿なの?! 加害者が被害者に対して言う台詞じゃないわよね」

「さすがにお人好しの君でも先方の言い草は分かるよね? 遊びだったんだから大目に見ない方が悪いって言ってる文だよ」


「あの、放火魔扱いされてるのは気の毒だから、そこだけは何とかしたいとは思うんですが……」

「人がいいのにも程があるよ」


あくまでも歯切れの悪い忠子に、理知は扇を口元に当てて悩まし気なため息をつく。


「率直に言えば腹立つ手紙だな!」

「よく言ったわ、忠子!」

「うん、図々しいにも程があるよね。放っておきなよ」


続いた怒りの一言に織子と理知の意見はハイタッチする勢いで一致したが、明式部は静かに立ち上がった。


徳子さとこ様に報告いたしましょう。これは看過ごしにできないわ」


凄く、怒っていた。



 * * *



「話は分かりました」


返事を待っていた使者は改めてこちらから文を送るからと駄賃をやって帰し、忠子たちは徳子の前に勢揃いしていた。

普通は部外者には外してもらうところだが、外で動いてもらう必要があるかもしれないので理知も同席している。


「悪いことをすれば諫められるのが世の理。ですが犯した罪以上に責められるのもまた理不尽です。付け火未遂の疑いは晴らして差し上げたいですね」


静かにおっしゃられた後、手紙にもう一度目を通して美しい眉を不快そうにひそめた。


「ですがこの文面……本をただせばご自分の無礼、失礼が発端とはまったく思っていないご様子がありありと伺えます。これでは御仏が説く寛容の心も遠のこうというもの。こうしましょう、貴照様が文車太夫への無礼を反省し、謝罪すればこちらもあの夜は火事などなかったと噂を否定する。理知様、内裏の様子はいかがかしら」


「誰も心から貴照様が付け火をしたなどと思ってはいません。半信半疑といったところですから、飛香舎に近しい人々がそうおっしゃるのなら疑いなどすぐ晴れましょう」


(うわ、理知の余所行きの声初めて聞いた。完璧な貴公子)



「常識を教えてあげたとお威張りあそばす割にはご自分は女に文も送らずいきなり無理強いするなんて非常識なことをなさって、まあダブルスタンダードですこと。まずは謝罪するのが筋では? 話はそれからと女御様もおっしゃられておいでです。

確かに放火犯扱いされてるのは社会的に針の筵で大変でしょうから少しは同情して差し上げますし職務に滞りが出るのも主上おかみのためにならないので誤解は解いて差し上げますでもまずは謝れ」


という内容を優雅なオブラートでグルグル巻きにした返書が明式部の代筆でしたためられ、棘のある枝を添えて送られたのであった。

読んでくれてありがとうございました!


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