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図書館は夢と感動の場

忠子は早速、大納言が作ったと言われる図書館について調べ上げた。


「あった、これだ」


図書寮ずしょりょうにある国家資料をひっくり返して調べると、続日本紀に記載があった。

偉大なる創設者は大納言正三位兼式部卿、石上大朝臣宅嗣いそのかみあそんやかつぐ


「ありがとうございます、先駆者様!」


資料を閲覧しながら有難がる忠子の姿はとても不思議だが、とにかく本の虫と知れ渡っているから誰も気にしない。


場所は晩年になって邸宅を改造したお寺の中の書庫で、芸亭うんていと呼ばれていた。そこをごく簡単に言えば「勉強したい気持ちがあり、そのために本が見たいって人は好きなように見なさい」と言って一般開放したようだ。


(でも私の知ってる一般公開とはちょっと違うよね。入って来られる人が限られる……会員制の図書館ってところかな。妥当かも)


人間性を信じない方ではないが、前世ではそれなりに人生経験を積んできた。人は大抵他人の物に対して持ち主が期待するほど注意を払ってはくれないので、やはり管理は必要だと強く思う。貸し出しをするならちゃんと記録をつけなければならない。


(趣味じゃなくて、これは仕事なんだから。徳子さとこ様付きの、女房の仕事)


忠子も出仕してしばらく経ち、女房というものがどういう存在なのか実感するようになっていた。

初めのうちは徳子の身の回りのお世話をし、ついでに自分は他の本当にお嬢様育ちの女房ができない雑用を引き受けてニッチにひっそり生きればいいと考えていたが、それだけのためにあちこちから優秀な女子を集めるはずもない。


帝や有力者に徳子が一目置かれるように、優秀なブレーンがついていると知らしめること。何のため? 女御や更衣といった大勢のお妃の中から正妃、つまりは中宮に選ばれるためだ。


今上帝は温厚な方で武より文に重きを置き、文化事業にも関心を示される方と聞く。

織子姫のお願い攻撃があったとは言え、即座に蔵が建ったのは右大臣も勝算ありと踏んだからだ。

平安有力貴族、お金はあるし気に入ったことには湯水のごとく金を使うが、メリットのないものにはびた一文出さない。


(ううう……嬉しいけど、プレッシャーがああああ……)


漠然とここに本がありますと言って並べても、多分人は来てくれない。


(コンセプトの戦いだ……)


はっきりとした目的を持たなければただの図書寮の劣化コピーに過ぎない。太刀打ちできない上に図書寮を仕切っている貴族たちに反感を買う。


(何か、私にしかできないこと。ここでしかできないことを考えるんだ。ううう……)


ひとつだけある。

文学専門の『物語文庫』とすることだ。

源氏物語などの人気作品はバージョン違いや絵巻物も集め、女房の作品も頼んで収蔵させてもらう。


源氏物語の大ヒット以来、宮廷では物語が大ブレイクした。

多くの女房が趣味で筆を執り、似たようなイケメンの華麗なる女性遍歴物語が手を変え品を変え多く書かれている。


忠子の生きた時代に悪役令嬢ものや異世界転生ものが大ヒットし、多くの作家によって珠玉の作品が生み出された現象とよく似ていた。


しかしここは社会的力関係がすべての貴族社会だ。

作品の内容や面白さより作者の名前が重要視され、有力貴族の作品だけが多く読まれ絶賛されるのは目に見えている。


そして、非常に優れていても名もなき人が書いたものは埋もれてしまうだろう。


(それは嫌だ! あなたの作品読みましたよ、って社交の取っ掛かりのために手に取るんじゃなくて、純粋に物語を楽しんでほしい!)


忠子は頭を抱えたが、やりたいことは見えてきた。



(図書館を、自分に刺さる作品を見つける夢と感動の場にしたい!)



この物語ブームがいつまで続くか分からない。

数年持たず誰も見向きもしなくなるかもしれないが、それなら今この時やらずしてどうするのだという想いが忠子の胸に強く燃えている。


だが……大問題が一つ。


(私のも……って言うか、グリムアンデルセンも入れなきゃ駄目だよねえええええ!)


忠子が中心となって作る文庫に本人の著作物がないなど不備物件もいいところだ。

求められているのは分かっている。重々承知だが、後ろめたさは捨てきれないのだ。

姪や徳子様はいわば身内であり、個人的使用それでも感覚的にはギリアウトだったのに、誰でも読める一般公開図書として出しますというのはどうしても抵抗感がありすぎる。


それが、一番のネックだった。


読んでくれてありがとうございました!


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