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自由で不自由な殺人鬼  作者: Mです。
9/10

そんなものは僕を嘲笑う

 責任を感じている……?

 しかたのない事だった……?


 自分に何度も問いかけてみる。


 再びボクらがキッチンに訪れた時には、

 ロープで縛り上げられた男は、無残に身体を引き裂かれていた。


 胴体だけがどこかに奪い去られ、

 その亡骸が地面に転がっている。


 こんな場所に一人拘束なんてしなければ……

 そんな後悔を少なからず感じてしまう。


 「ねぇ……とーた君、何がどうなってるの……」

 後ろから、顔を真っ青にして鳴響 リンネはボクにそう言う。



 「……リンネちゃん、君の持つ情報でさえ……この犯人を導き出せないの?」

 ボクのそんな言葉に……


 「……この状況で情報の整理なんてできないよ……」

 そうリンネちゃんは答える。



 今、この場に居合わせている人間。

 ボク……逸見 トウタ

 不羈乃 ナギ

 公明 ヒイラギ

 鳴響 リンネ

 分限 ネイネ

 の5名


 最初は14名だった人数は、ここに居ない5名を合わせて10名まで減っている。

 この際は、紛らわしくなるからあの自称調律者は居ない者としておく……


 整理しておきたい情報は何か?


 「リンネちゃん、志念 マキと侑陽 アケミの関係について知ってる情報を教えてほしいんだ」

 ボクはそうリンネちゃんに尋ねる。


 「えっ…え、うん……志念家、この島でも数少ない資産家の次女、そして、侑陽家……殺し、暗殺術を得意とし、昔は暗殺の仕事もしていた……という話だけど、さすがに今はそういった仕事は引き受けていなかったみたいだけど」

 そう……辺りの惨事を見ながらリンネちゃんが言う。


 「……この有様、他に候補いるのか?」

 今度はネイネちゃんが、侑陽アケミ以外にこの惨劇を起こせる人物が居るのかと言うが……

 ボクの検索する人物の中にはそれは多数存在する。


 言ってしまえば……一見、大人しそうな人物、ボクがよく知ったつもりで居る人物でさえ、実はそんなことを簡単にできるのかもしれないとさえ思ってしまう。


 「……アケミさんが志念家に仕えるようになったのは、最近?」

 そんな情報すらも彼女は取り揃えているのか、疑問ではあったが。


 「この誕生日会のあった、丁度一ヶ月前と聞いている……採用されたのは侑陽アケミと侑陽クレミの2名、護衛を含めた使用人として雇われたと聞いている」

 そうリンネちゃんがボクに教えてくれた。


 「侑陽クレミ……?」

 少なくとも今回のこの場所に彼女は一緒に居ない……

 姉か妹かわからないが……二人そろって起用されたとして、

 学園で見たのも……アケミさん一人だ。


 「クレミが姉、アケミが妹の双子の姉妹、雇われた当時は侑陽家の仕来りで仮面をつけていたけど、志念マキの一言でその仕来りも仮面をあっさり剥がされた……その辺りから姉の姿のクレミの姿を見かけないと聞いている」

 そうリンネちゃんが教えてくれた。



 「よほど……素顔を晒したくなかったのか、《《できない》》理由があったのか……」

 ボクがそうつぶやく様に返す。


 《《できない》》理由について考えてみる……

 ぐるりと周囲の人間を見渡し……もしも、もしも……

 そんな事があるというのなら……


 「何か……わかったのかとーた?」

 ヒイラギがボクの様子を見てそう尋ねた。


 「……いや、もしもの話だよ」

 ボクはそう答え……


 「侑陽クレミが志念マキに、その素顔を見せる事の《《できない》》理由があるとしたら……その仮面の下の《《素顔》》を既に知っていたとしたら……」

 ボクはそう言って周りの反応を探る。


 「はぁ?どういう意味だよ」

 そうヒイラギは返す。


 「ここに来た14名の中に、別の名を語る《《侑陽クレミ》》が要るんじゃないって……」

 ボクのそんな言葉に……


 「この14名の中に紛れた侑陽クレミが今回の事件の犯人って訳か?」

 ネイネちゃんがそう尋ねる。


 「わからないけど……《《できない》》ことに理由をつけるとするなら……」

 ボクはそう答える。


 「でも……そうだとして、なぜ侑陽クレミが主人であるマキを殺したの?」

 ……確かに、それはわからない。

 素顔を見せたくないが故にそこまでする理由も無い。


 まして、今回の殺人の理由がわからない。

 そして、未だ行方知れずの妹の存在……


 しかし……ボクとヒイラギとナギちゃんが目撃した、志念マキが殺された現場。

 シルクハットを被り《《仮面》》をつけた犯人。

 なんとなく、今回の事件に……ボク自身に説明ができてしまうんだ。


 「侑陽クレミ……がもしも犯人だと言うなら、この事件の犯人は《《女性》》ってこと?」

 リンネちゃんがそう尋ねる。


 「可能性は高いとは思う……けど、《《素顔》》を《《隠した》》理由には、もしかしたら性別を知られたくなかった理由があれば、その思い込みは危険だと思う」

 ボクはそう答えた。

 姉妹という情報があるんだ……姉である以上はほぼ女性で間違いはないだろうとは思うが……もしもその素顔を見たものがいないというなら、その性別を偽って生きてきたという可能性もなくはないだろう。


 ……これまでの3つの事件をもう一度洗い直す必要がありそうだ。


 あの調律者と名乗った何者かが言った言葉。


 ボクが見間違えているというものがあるというのなら……

 そこに答えは、残っているのかもしれない。


 ボクはペンライトを手にすると、キッチンの外に歩き出す。


 「ちょっと……一人でどこに行くの?」

 そうリンネちゃんがボクに言う。


 「もう一度、この屋敷の中を見てみる……」

 ボクはそう返す。


 「一人で?危険だろ」

 そうヒイラギが言うが……


 「4人はここを動かずに居て、互いにそれを証明してほしい」

 遠まわしに、目の前の4人が犯人では無いと証明してほしいと頼む。


 「僕が一緒に行くよ……」

 ナギちゃんがそう名乗り出る。


 「存在が曖昧なのは《《僕》》だろうからね……とーたちゃんにもしもの事があれば僕が犯人ってことにすればいいよ、だから僕がとーたちゃんに何もさせやさせないよ」

 そうナギちゃんは言った。


 志念マキの殺人現場をボクとナギちゃんとヒイラギは一緒に見ている。

 だから、ボクの視点としては、ナギちゃんが侑陽クレミという説は考えにくい。

 もしも……侑陽アケミが生きていて、共犯という話でなければ……


 結局ボクはナギちゃんを疑うことなく、二人で行動をとることにする。

 理由は単純だ。

 もしも、彼女がボクを殺したいのなら……ボクはすでに何度も殺されている。

 そんなチャンスはいくらでもあった。


 各自の寝部屋分け与えられた部屋のある二階にあがる。

 酷く壊された扉……

 月鏡 ウミに与えられた部屋。


 最初の殺人現場。


 ボクは一呼吸を置いて、平然を装うように部屋に踏み込む。

 黙ってその後ろをナギちゃんがついてきた。


 血なまぐさい匂いが一気に鼻の奥をつきぬける。


 《《それ》》があった場所をライトで照らすが……


 「……なくなっている?」

 死体がくくりつけられていたロープだけが垂れ下がっている。


 その下の床にはべったりと血の跡が残っていて……


 そこに《《それ》》があったのは間違いないだろう。



 犯人が……片付けたのか?

 何のために……


 そこに……意味があるのか……ないのかはわからないが……

 再度確認されることに……なにかまずいことでもあるのだろうか。


 取りあえず、周辺を調べながら、当時の様子を思い返す。


 ボクは《《それ》》を確かに見た……

 そして、ボクは《《そんなもの》》は見ていない……


 あの男の台詞を思い返す。


 くくりつけられていた《《それ》》は片付けられているが……

 ボクは間違いなく《《それ》》を見ている。

 あれが、恐怖からの錯覚だったとかそんなオチがある訳はない。


 《《それ》》を見た……

 《《そんなもの》》を見ていない……


 ぐるぐるとその言葉だけが脳裏を駆け巡る。


 「とーたちゃんに手を出すなっ」

 不意に後ろでナギちゃんが呟く。


 いつの間にか出入り口に立っている何者かにそう言葉を投げかけたようだ。


 シルクハット、仮面をつけた何者かが立っている。


 いつの間にか手にしたバタフライナイフを手にナギちゃんがそいつに飛び掛る。


 殺人鬼はそれを回避すると、同じようにいつの間にか両手にナイフを手にしている。

 その2本のナイフの2連撃をナギちゃんも同様に華麗に回避した。


 互角……いや……多分、優位なのはナギちゃんだろう。


 互いに攻撃と回避を続けながらも、徐々に追い詰められているのは殺人鬼の方だ。


 恐らく1対1の構図なら、ナギちゃんが圧倒していただろうが……

 それは、ここにボクが居なければだ。


 殺人鬼はボクに向かいその手にしたナイフの一本を投げた。


 ナギちゃんはそれを察知し、有利な体勢を崩し、ボクの側に駆け寄ると、

 そのナイフを素手でキャッチする。

 ボクをめがけ飛んできたナイフの勢いを右のてのひらで勢いを殺すようにキャッチした。

 そのてのひらから、血が飛び散るようにボクの顔に付着する。


 「ナギちゃん、大丈夫?」

 ボクは思わずそう叫ぶ。


 「平気……」

 ナギちゃんはそう返し、キャッチしたナイフを投げ捨て、

 自分のナイフを左手に持ち直した。


 右手が重力に逆らうのをやめたようにだらんと下がり、

 左手に意識を集中する。


 殺人鬼は出入り口の位置までいつの間にか移動すると……

 ナギちゃんから目を離さずその場から逃走した。


 「ナギちゃん、ありがとう……右手、大丈夫?」

 ボクがそうナギちゃんに尋ねる。


 「平気……」

 そう言うナギちゃんの目がどこか虚ろに見える。


 右手をつかみてのひらを確認する。

 確かに少し切れた程度の傷……

 ボクより細いこの腕でどうすればこの程度の傷で済むのか不思議であるが、

 ……その少し切れた傷跡の周辺……右腕が赤紫色に変色している……


 地に落ちたナイフを探しその刃を確認する。


 べっとりと濡れたナイフ。

 もちろん、ナギちゃんの血もあるが……


 「……毒?」

 ボクはその液体をみて口にすると……


 「大丈夫……とーたちゃんは僕が守るからね」

 そう言ってナギちゃんがバタンと大きな音を立て倒れた。


 「ナギちゃん、しっかりして、ナギちゃんっ!」

 取りあえず、安全な場所に運ばないと……

 ボクはナギちゃんの身体を背中に背負う。


 先ほど、殺人鬼を圧倒するほどの身の捌きをしていたとは思えない、

 弱々しい軽い身体……。


 ボクは自分の部屋に運ぶと、ナギちゃんを自分のベッドに寝かせた。


 薬……この屋敷に、医務室的な場所があっただろうか……

 医療知識なんて、持っていないが……


 ぐったりするナギちゃんの姿を見て……

 そんな泣き言を言っている場合じゃないことくらい理解している。


 何とかして助けたい……じゃない。

 何としても助けろ……それがボクが彼女に対しすることだ。





 《《それ》》は今どこにあるのか……

 《《そんなもの》》は今もどこかでボクをあざ笑う。



 

 

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