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自由で不自由な殺人鬼  作者: Mです。
7/10

調律者

 「遅かったじゃねーか、逸見 トウタ」

 ボクに与えられた部屋で目の前の見知らぬ男がボクに言った。


 余りにも怪しすぎる男に返って警戒心が失せていたのも事実。


 「……だれ?」

 ボクは冷静にそう男に尋ねた。


 「俺はJ.K.この世界の調律者だ」

 そう男は不適に笑う。


 「ジョーカーだか、女子高生だか知らないけど、ボクは君なんて知り合い居ないけど」

 そう返す。


 「じぇいけいだ……、この俺様を二度とそんな呼び方するんじゃねぇ」

 この男が……今回の事件の真犯人なのか……そんな安直な考えがよぎるが……


 「あんたが真犯人なのか?そんな馬鹿な質問をして俺をがっかりさせるなよ、逸見トウタ?」

 J.K.と名乗った男がボクにそう言う。


 「……なら、あなたはなぜこんな場所に居るの?」

 ボクは冷めた目で男を見ながら尋ねる。


 「なんたって、俺は世界の調律者だからな……《《間違った世界》》を見ている奴に、現実を見せてやらなきゃならない」

 そうJ.K.は再び不適に笑い……


 「助言をくれてやるって言ってるんだ、逸見トウタ」

 真っ暗な部屋、真っ黒なゴーグルで目元を隠す男の表情はうまく読み取れない。



 「お前が探している《《それ》》に惑わされるなよ」

 遠まわしに言葉を隠しながら……J.K.は調律者という立場の助言とやらをボクにくれているようだ。


 「お前が最初、《《それ》》を見た時に……そう印象を覚えていたんじゃないのか?」

 J.K.はボクに言う。


 「ここまでの事件をふりかえろ……お前は《《それ》》を見ているし、お前は《《そんなもの》》は見ていない」

 J.K.は不適に笑う。


 「《《この俺のようにな……》》」

 J.K.はそう付け加えた。

 目の前の男、このJ.K.という男がボクが見ている幻だとでも言うのだろうか。


 意地悪なくらいに遠まわしのヒント。

 というか、この男はすでにこの事件の犯人が誰かがわかっているというのだろうか。


 でも確かに……この男のその言葉にボクは何かが引っかかる。

 ボクが見て……ボクが見ていないモノ……


 「《《それ》》の存在など……この真相に何の意味もない……《《そんなもの》》を探す方が逸見トウタ……てめぇの探す答えってやつじゃねぇのか?」

 そう、J.K.は楽しそうに言う。


 「……調律者と言うなら、そんな回りくどい事言わないで、真実を教えてくれてもいいんじゃないの?」

 ボクのその言葉にJ.K.は不適に笑い。


 「おぃおぃ……勘違いするな、俺は救世主じゃねぇ、調律者だ……俺はてめぇの間違いを正すだけで、てめぇの味方じゃねーんだぜ、逸見トウタ」

 そう再度、不適に笑う。


 そんな、自称、調律者……彼の正体をボクが知るのは……


 彼の言う……《《それ》》や《《そんなもの》》……そしてこの事件の犯人を知るよりももっと後の話になる。



 「もっと……自分で《《見た》》ものを信じろよ……そして、その《《解釈》》を疑え……」

 そうJ.K.がボクに言い残し、ボクの部屋を立ち去ろうとする……


 「……至念 マキ……」

 ボクは唐突にその名を出す。

 J.K.はピタリと足を止めた。


 「……ボクが先ほどまでこの事件の主犯だと思った人物の名前……」

 ボクがそうその後姿に言った。


 「……そして、夕陽 アケミ……彼女がマキちゃんの代わりにその凶器として自由な殺人鬼としてこの島で……そしてこの孤島でその権利を駆使していた」

 このイカレタ島……法律というシステムが完結していない……この場所で……

 財力と権力を持った至念家が何かしらの権利を駆使して……自由なる殺人鬼という地位を得ていたとしたのなら……



 「……なるほど、だが……本人、至念 マキは死んだ……それでもお前のその推測は成り立つのか?」

 振り返らず、J.K.はボクの推理に答える。


 「………」

 返す言葉は浮かばない。


 「あぁ……たぶん、その推測は間違いはない、真実だろう」

 J.K.がそう肯定する。


 「……単純な話だ……この誕生日会、この孤島を利用し己の殺人という権利を駆使しようとした至念 マキが描いたシナリオがあった、だがそれは失敗した……そう、《《単純》》な話だ」

 J.K.はそうボクに返すと再び歩き出しドアの外に出た。



 ボクはベッドに大の字に寝そべると天井を眺める。


 夜が明け、明日の訪れを待つ。


 孤島……連絡手段と脱出手段を奪われた。


 明日、助けが訪れる保障は無い。



 殺人鬼の狙いは……後、どれだけの命を奪いたいのだろうか?

 





 いつの間にか、少し眠っていた。


 別に現状に怯え、一日中起きているつもりもなかったが……

 気配など全く感じなかった……


 正直、今もそこに誰かいる気配などしていない。


 ただ……ボクはこの真っ暗闇でボクの顔を覗いているだろう誰かに……



 「……ボクに、何かようかな、ナギちゃん?」

 ボクのその問いかけに……


 いつものように、その名をボクに呼ばれることがくすぐったそうに、あははっと笑う。


 「とーたちゃんは僕のモノだから……とーたちゃんは僕が護るからね、だから夜が明けるまで、そばに居てあげる……だからおやすみなさい、とーたちゃん」

 いつの間にかボクの布団の中でうずくまるナギちゃんはそうボクのそばで囁くと、しばらくして、寝息を立てる。


 彼女もまた……何者か……

 ボクの中では……一番の謎なのかもしれない。


 そして、最悪な夜は明けていく。


 ボクは眠っているのか……起きているのか……


 そんな事は関係無しに悪夢は続く。




 緑木 ナエに至念 マキの誕生会に誘われた……


 公明 ヒイラギがそれに承諾し、ボクも参加することになった……


 誕生日プレゼントを買いに寄り道をし 不羈乃 ナギと出会った……


 誕生日会には13名の同じ学校の生徒とプライベート船を操縦する1名が孤島に向かった。

 

 その先で月鏡 ウミが死んで……


 夕陽 アケミが失踪して……


 海場 ゴウが死に……


 そして、主犯と思われた……至念 マキは殺された。



 そう……ボクは《《それ》》を見た。


 そう……ボクは《《そんなもの》》は見ていない。



 見たその真実を受け入れろ。


 その錯覚を振り払え……



 なんだ……答えは簡単じゃないか……。


 それでも……今のボクはそれを受け入れない。



 正解は一つではない……


 でも答えは正しくなくてはならない……


 だから、間違いは正さないとならない……



 《《それ》》は正しいのか?


 《《そんなもの》》に間違いは無いのか?



 辿り付けよ……


 ……辿れ、その空欄に当てはまる言葉を当てはめろ。


 その答えを重ね合わせろ……



 あの日のあの笑い顔で……犯人は今も笑い続ける。

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