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英雄は恥を晒す  作者: yulann
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第0章 あなたへ

 彼のことを知っていますか?


 ああ。勿論知っているさ。あれほど平和のために世界に尽くした人間がいるのか知りたい。彼は正真正銘の英雄だ。彼に憧れて俺も傭兵になったんだからな。


 彼のことを知っていますか?


 最強の敵であり最強の友だった。だけど、あいつは強すぎたな。あいつが敵にいると負け確定みたいなもんだ。こっちの報酬が低くて泣きたくなったよ。ハッハッハ。


 彼のことを知っていますか?


 とてもとても優しい人でした。分け隔てなく愛を分け与えられる、最高の人でした。彼の愛によって救われた人は数多くいることでしょう。彼の周りには自然と人が集まリます。


 彼のことを知っていますか?


 彼のことをもっと気にかけておくべきだった。彼は特別な人間で、何でも自分で解決できるのだと思ってしまっていた。そう思わせるだけの力が彼にはあった。だが違った。彼も同じ人間だった。もっと早くに手を打っておけば、あんなことにはならなかっただろう。俺の人生の中で最大の後悔だ。


 彼のことを知っていますか?


 はい。心のそこから愛していました。昔から一緒に育って、あのまま幸せに人生を送っていければよかったのに。人生とは残酷なものです。愛し憎まれ、それでも生きていかなければならない。あの時、もう少しだけ私の声が届いていれば。私の体がもう少し丈夫にできていたら。だめですね。どうしようもない、もしものことを考えてしまいます。


 彼のことを知っていますか?


 私のせいかもしれない。私が選択を間違えなければ。あの時、あの場所にいたのが私ではなかったら。私は逃げた。彼からも、彼女からも、あの子からも。そうした先に残ったのは絶え間ない後悔と、懺悔の日々だった。だから、私は剣を握った。死んで楽になろうとした。でも、私は殺してもらえなかった。結局、殺す価値もない人間だったんだ。


 彼のことを知っていますか?


 ああ。俺の生きる意味。俺が命を授かったのは彼のためだ。できれば普通の人間として、使命を全うせずに死ねればよかったんだが。世界はそんなに甘くない。1回目はよかったんだが、2回目は・・・。


 彼のことを知っていますか?


 最高の人間だ。あれほどの好敵手に出会ったことはない。あいつを見るだけで全身が高揚する。グチャグチャにしたくなるんだ。だが、一つ気に食わないことがあった。あいつは俺ではなく、自分の後ろにいる人間を見ていた。俺を見ていなかった。


 彼のことを知っていますか?


 人に頼るということは怖いことです。周りの目を気にして声が出せないかもしれない。でも、大きな声で叫んだら、手を差し伸べてくれる人はいっぱいいるんです。そう教えてもらいました。心から尊敬しています。


 彼のことを知っていますか?


 私は戦場で救われた。そして、私は強くなった。他の追随をゆるさぬほど強く。魔法の極みへ。でも、本当にその力が必要な時に、私はその場にいなかった。私の人生はなんのためにあったのか。


 彼のことを知っていますか?


 英雄の恥晒しだ。やつのせいでどれだけの人間が・・・。彼は生まれるべきではなかった。彼は多くの人間を救ったかもしれないが、その代償は大きすぎた。


 彼のことを知っていますか?


 厄災。触れるもの全てを破壊する、憎しみの権化だ。


 彼のことを知っていますか?


 誰も殺せない。誰も傷つけない。本当に心の優しい子だったよ。

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