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判断を誤る

 自分が判断を誤っていたとしても、その最中にはなかなか気が付かない。

 アクシデントや問題の渦に巻かれてグルグル回っている最中なんだから、場当たり的な事をしてしまうこともあるし、なんとか判断を思い留まったのが、良かったのか悪かったのか見当もつかないままで、結果が思ったほど悪くなかった時には、『私の判断は間違ってなかった~!』と思うだけ。フィードバックなどしない。




 ヘドロの溜まった側溝にスマホを落とした。

 信じたくもない出来事に、脳は事実を否定してスマホを入れていたポケットを何度も探っていた。

 今更、そんな事をしている場合ではないのに。

 スマホは側溝に落ちたんだからポケットを探る時間は無駄である。さっさとスマホを救出することに頭を使うべきなのに。



 ヘドロ地獄にスマホを落とすきっかけとなったのは、側溝にゴミが詰まりすぎていて水があふれ道路に流れ出ていたので、ゴミを取り除いてやろうと思ったからである。

 側溝の詰まりが取れたら水はきちんとした水路を流れていくことが確かだから。ほんの少しの手助けで水がちゃんと流れると思っていたから。側溝が汚いのも私の気持ちをモヤモヤさせていたから。木の枝や葉が堆積して水は濁った水色。夏場だったら蚊が沸くし臭いもひどい事だろう。

 近くに落ちていた折れた竹を拾って、水の流れをよくしようと詰まった木の枝などを引っかけて取り出していたら、ポケットのスマホを側溝に落としてしまったという訳だ。トホホである。



 現実を受け入れず何度もポケットを探るという無駄をやらかしたが、汚い側溝に素手を突っ込む事には躊躇がなく、突っ込んだ後に「ぎゃ!!気落ち悪っ!」と思った。

 気持ち悪いが早く救出しないとスマホの命が危ない。もう死んでるかもしれないけど、僅かな可能性で生きてるかもしれない。

 僅かな可能性で生きているという事は瀕死か?

 瀕死はまだ死んでない状態だから生きてるってことだ。

 そもそも機械に「瀕死」な状態ってあるのやら。

 いや、そういう可能性を言ってるんじゃない。瀕死でも使えないとダメだ!

 無駄な考えは次々に頭に浮かんだが、腕は何度も側溝に突っ込む事に躊躇はなく、ようやく葉っぱだか泥だかの堆積物の中からスマホを引き上げた。


 引き上げたスマホケースは汚れていた。

 スマホケースを外すと中は意外にも濡れていなかった。画面に貼っていたガラスフィルムは濡れていたが、外してみると水滴すらついていなかった。

 表示されるアプリに指が振れると、アプリの一つが起動した。動いている!

『こういう時は電源を切ったほうが正解なのか?』

 分からないが、ここで電話が鳴っても応答する気にはなれないから、一応、電源を落とした。

 そのまま家に戻って、パソコンでスマホを水没させた時の対処法を調べて、丸一日ほど乾燥させてから電源を入れることにした。

 祈る思いであった。



 スマホはなくてはならない物だが、生きていくのに必須ではない。その程度の重要度のくせに、ダメにしてしまった時の精神へのダメージはかなり大きい。

 経済的・心理的不安がのしかかる。

 機種の支払いが終わったのに振出しに戻る。

 払い終わった時点で、落下・盗難・水没の災難に見舞われるように、何かの呪いが製造時点で練り込まれてるんじゃないかと被害妄想がわく。自分の不注意で落したに過ぎないのに、陰謀説めいたことが頭をよぎってしまう程に堪える。

「なんでポケットなんかに入れていたのよ!」という後悔と反省の前に、陰謀説が浮かんでしまう思考回路はまともな考えではないのに。



 スマホがダメにって抱えるストレスは、経済的・心理的ストレスだけではない。

 機種変に伴う手続きの拘束時間もかなりのストレスになる。

 両親のスマホへの機種変に付いて行ったときは、三時間近くかかってしまった。対応してくれたショップの女性にも申し訳ない位に時間がかかった。

 スマホだけのプランに加えて、固定電話とかパソコンのネット代だとか諸々を変えることになったから時間がかかる。スマホの契約プランの内容も、まとめた光回線も何のことだかさっぱりで、どう反応したらいいかも分からないほど、理解が追い付かない。

 田舎の単線の駅しか知らないのに、都会の駅から地上に出てみると、目的にしていた建物がなく違う出口に出ちゃった時の混乱に似ている。自分の所在地が分からない。

 自分の所在地が分からない感覚は困る。高校時代、数学の先生に「何が分からないか、もう私には分かりません」と言ったら、「重症だな」と言われた。分からない時点が分かれば、その時点まで戻れるのに、どこで分からないか、もう分からないんだもん。遭難である。

 携帯ショップに長時間いると精神が遭難状態になる。分からないことが累積し、質問してもさらに疑問が累積し、脳が疲弊するってこういう事なのかと思った。


 契約が済んだ時には親子共々、疲労困憊で外食して帰ろうという事になった。

 父は焼肉を食べたがったが、「焼肉は高くつく」ということで回転寿司になった。

 その回転寿司は一皿百円と決まっている寿司屋ではなかったので、好きな物を食べた結果、びっくりするほど高くついた。却下した「高くつく焼肉」どころの沙汰ではない。

 判断を誤ったという実感が疲労した心身にのしかかった。

「疲労は判断を誤らせる。」それを身をもって経験した。



 携帯ショップに行くような事態は避けたい。

 最近、疲れが取れていないから機種変更をするだけのHP(ヒットポイント)が残っていない。

 どうか、どうか、スマホが元気になりますように。

 私は誤った判断を重ねた愚か者です。

 スマホをドブに落とす様なことは今後は一切いたしません。チャンスを下さい!

 特定の神様を持たないので、あてもなくなんかの神様に祈る思いで過ごした。

 真剣に具体的に強く祈った。


 一日以上、そっと寝かせておいたスマホに電源を入れると、通常通り作動した。

 アプリも、やりかけていたゲームも消えてはいない。

 なんかの神様が私にチャンスをくださった!ありがとう!


 あともう一つできることなら・・・

「絶対に、絶対に大丈夫」だという神様からの言質をとりたい。

 真面目に祈っていたから、神様お願い。









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― 新着の感想 ―
[良い点] スマホケースが意外と有能だった点。 [気になる点] 焼肉より高い回転寿司。 焼肉のほうが高い印象がありますが、ビールを飲まなければそうでもないかもしれないですね。 [一言] 胸ポケットです…
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