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知らなくてよいこと

 知らなくてよいこと。Tシャツに書いてある英語の意味。


 私はTシャツを着ることが滅多にない。驚くほど似合わないからだ。

 美意識が強いわけではないが、丸首のTシャツ姿を鏡で見るにつけ、普段より五割増しで野暮ったさが強調される。

 スエットも滅多に着ない。笑いが出るほど似合わないのもあるが、最近、逮捕された人間が送検される姿をテレビで見るにつけ、スエット姿の自分に似てる気がしてしまうのだ。

 


 大学に入ったばかりの頃、母がやや高級なブランドのトレーナーを私に送ってきた。

 高校時代はほぼ毎日のように制服だったから服を持っていなかったので、ありがたかったが、如何せんそのトレーナーが似合わない。

 ブランドのロゴも目立つが、着ている姿が実年齢よりも一回りも二回りも上に見えてしまう。母は公務員だったが、周りの若い女性職員の間で流行っている服装なのだろうか。それを売っている店など近所にはないから、どこかに買い求めに行ったか、通販で買うよりほかはないのだが、一体どうしたことだろうと思った。

 わざわざ購入した高い服が似合わない。捨てるのも如何なのかと思い、冬場の体育の時間の体操服にした。当然、友人達に「その服、どうしちゃったの?」と問われ、毎回、晩秋の頃の体育の時間に説明をすることとなった。高いだけあって、洗濯してもなかなか傷まないそのトレーナーは、今度は授業で出かける様々な実習先で使う事となるのだか、今度は大人たちの中で浮いてしまう。こちらとしても金銭的に余裕がないので、新しいトレーナを買う気にもなれず耐えた。



 首周りのデザインが変われば、Tシャツも何とか見られる姿になることもあるが、Tシャツを着ない理由に、プリントされている文字に対する不信感があるからだ。

 どうしても体重を落とさねばならない危機的状況にせまられた時期があった。

 真剣に考えなければならない事態だったので、朝夕とウォーキングに出ることになった。その時、着ていた服に


「Three Days Boy」とプリントされていた。


(スリー ディ・・・?三日間・・・男の子?) 

 何気なくTシャツの字に私は注目してしまった。

 なんだその意味は?としばらく考えて「三日坊主ってこと?」と閃いた。

 背中側に返すと、隆椎部分に「三日坊主」と漢字で書かれていた。

 入るサイズで手頃な値段で買ってしまったTシャツは、自らの三日坊主を宣言するようなものであった。

 そもそも、「三日坊主」とは「飽きやすい人」」「長続きしない人」という事で、「Three Days Boy」なんて英語では言わないんじゃないのかしら。

 これって、まさかオヤジギャグの類か!!

 ズバリ「飽きやすい人です」って英語で書かれてるならともかく、間違った英語で、己を「三日坊主の人」と言う、二重の間違いを犯している。痩せた女が着ているならともかく、痩せろと言われている女が着て歩かされているのだがら笑えてしまう。

 結局、妙なプライドから袖を通したくなくなった。

 Tシャツの英語の意味を知ろうとしたせいで、その服を着たくなくなってしまった。三回くらいは着たかもしれない。箪笥の肥やしにするのも嫌だったが、傷んでないから捨てようがない。こういう服に限って無駄に丈夫と言うか、生地の質は良かったりするものである。

 そのTシャツは妹の高校で、バカバカしい文字のTシャツを着るブームが起こり活用されることになった。

 以来、Tシャツの英単語を気にするようになった。

 婦人服売り場にひどい意味の英単語をプリントした服は売られてはいないだろうが、一応、検索すると、時々、日本語とは若干ニュアンスの異なる皮肉めいた意味がある単語が書かれていることもある。文字の書かれたTシャツは着るまい。そう強く誓った。




 愛猫ニアは日に数回は外出をする。

 猫は室内で飼えと言われるが、ニアは毎朝、パトロールに出なければならない性分の猫である。外に出さないでいると、家族の足を執拗に攻撃するので耐えかねて外に出される。一時間程かけて家の周りや庭をチエックしている。

 帰宅後はすぐに寝床へ戻り、そこから昼まで眠るというのが日課なようだ。



 正月を機にニアの首輪を新調しようと思った。

 外を出歩くせいで汚れが目立っているので、新しい首輪をつけてあげようと思った。今の首輪は赤で

「I am cat」と、白字で記されている。

 猫が付ける首輪なのに、「私は猫です」と猫自身が宣伝している。言われなくてもどう見ても猫だが。

 ニアの首輪は強い圧力が加わると、首吊り防止のために外れる仕組みになっている。度々、首輪を外して帰宅することがある。

 庭には木が多くニアが上って枝に引っ掛けてしまうようだ。月桂樹にはよく登っているのか、その木に四本の首輪が下がっているのを発見した。

 首輪を紛失して帰宅するニアは、飼い猫感がまるでない。

 

 ニアの首輪に書かれている「I am cat」の文字をぼんやり見ていると、なんでそんな文字を刻んだんだろうと製造販売メーカーの意図を考えてしまった。

 ニアは毛色の個性が強いから、「私は猫です」と言わないと、アナグマとかタヌキに見間違えられるかもしれない。間違われやすい猫も多くいるのかもしれない。飼い猫らしく首輪をして「私は猫です。人と同居しています」と主張する必要はあるかもしれない。


 ワゴンセールで三本で千円だった首輪は、他にも青の首輪に白字で「I LOVE CAT」、 赤の首輪に白字で「I LOVE FISH」と書かれていた。


 ニアは猫が大嫌いだ。

 加工食品になっていない魚も食べない猫である。






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― 新着の感想 ―
[一言] たまに変な日本語のTシャツを着ている外国人がいるけれど、なんか微笑ましい気分になります。(笑) わざとか? でも、気持ちは分かる。 小学生の頃使っていた筆箱に、あるアイドルの名前がローマ字で…
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