猫はよく吐く生き物である
猫を飼うにあたっての永遠のテーマ
猫はよく吐く。
猫を飼って知ったことだが、たびたび嘔吐する。どこでも嘔吐している。
猫が嘔吐しようとして体を震わせているのを初めて見た時、どうしてよいか分からずオロオロした。
悪いものでも食べてしまったのか。悪い病気なのかと慌てた。吐瀉物を受け止める気はないが、吐かれるのは困ると思って、雑巾やら新聞紙を猫の周りに敷いたこともあった。ただし、そんな準備をした時は吐いたりしないのが愛猫である。
猫の健康管理上、吐いたものは一応確認する。
朝のパトロール中に摂取したであろう草が胃液に交じって、少し猫の毛が吐き出されていることもある。
食べた餌と共に毛が混じってることもある。
猫は毛繕いが欠かせないから、毛を飲み込んでしまうのだという。吐いて外に出すよりは、できるだけ排せつ物と共に外に出してもらおうと、毛玉対策の食事にはしてはいるのだがそうはいかない。
猫特有の事情の他に、愛猫ニアにはもう一つ吐く理由がある。
それはおそらく「早食い」のせいであろう。
おっとりではあるが早食い傾向の飼い主と同じく、ニアは早食いなのかもしれない。
夕食は少しずつ何度かに分けて摂取しているようだが、朝食はガツガツと皿を鳴らしながら食べている。「まだご飯残ってるよ」という夕食とは違って、朝食は「もう食べ終わったの!」と驚くくらい早食いだ。
その早食いが食べすぎを生んでいるのだろうか。数分するとどこかで嘔吐している。まだドライフードの形状そのままに吐き出されたものを廊下に、時には和室に、最悪な時は誰かのベッドの上に放置し、何食わぬ顔で、「ねぇ、なんか食べたいな」と言い寄ってくる。
食べてすぐ吐いたドライフードではあるが、ニアは吐き出した物は絶対に口にしない。
人間だって己が吐いたものは口にしないから、猫にも強要する気はないが、だったら考えて食べてほしいものである。
胃に収めてすぐに吐き出したドライフードは、少し湿ってはいるがまだギリギリドライなフードだ。「猫なんだから食べなさいよね!」と、理不尽な要求をぶつけてしまうくらい、勿体ない状態のカリカリなのだ。
濡れてはいるがギリギリ「か〇〇えびせん」状態だから吐いたものを食え!と言われたら、私は拒否するけれど。
吐いては「腹が減った」と新しいカリカリをニアは執拗に強請る。
あまりにしつこいけれど、時々、無視してやる。
無視しているうちに、「吐き出したらもったいないニャン」「食べ方を考えようかニャ~」くらいは思うのではないか?などと、あり得ない期待を猫に対してしてしまうのは人間の身勝手なことと分かってはいる。
吐き出した餌を横に、「食べ物をよこせ」と鳴くニアを完全無視していると、いつの間にか諦めたのか、庭に出してくれと要求を変えた。
共に庭に出て、しばらくして数メートル先のニアを見やれば、田んぼの中で何かを咥えていることに気が付く。
しきりに口を動かして、顔を傾けて何かを咥えている姿を見てハッとした。
『ニアが何かを食べている!』
慌ててニアに駆け寄ると、ニアはネズミを食べている最中だった。
(飼い主がくれないのなら自分で調達するまでだ。いつでも野良になる準備はできているニャ)と言った感じでいる。
産まれながらの飼い猫は狩なんかできないと思っていたのに、ニアはいつの間にかスキルアップしていた。猫としての能力が高いことを褒めるべきなのだろうが、そんな能力は飼い猫には必要ない。できれば眠らせたままでいてほしい本能である。
ニアが食べるのに格闘していた、ネズミの上半身を取り上げ、近くの川に投げ捨てると、ニアは「ネズミを返せ!泥棒ネコ」と抗議するかのようにしつこく喚いた。
とにかく吐く癖を何とかせねば。
ニアに定期的にしているワクチン接種を受ける際に獣医師に相談した。
己の体形を棚に上げ、ペットの体重の増加率を瞬時に計算するのが得意な獣医は、ニアの体を触りながら、「猫はよく吐く生き物だよね」とあっさり言った。
「吐かない様にしてというのは難しいですよ。」と言いながら、フードなどを並べている棚からフードを入れる容器をとってきた。
その容器は、クローバーのような形で皿の真ん中に肉球模様の突起があった。使い勝手も悪い上に洗いにくそうな形状であった。
「餌を少し食べにくくする皿で早食い防止になる」と言って見せてくれた。この使い勝手が悪く洗いにくい皿を買えと言うのだろう。
表替えをしたばかりの畳に、なかなか消えない吐きジミをこれ以上増やしたくはない。数百円で吐く問題が改善されるのでればお安いものだ。
ニアは食べにくい皿を使って食事をしている。
よほど食べにくいのか、前足を皿にかけ格闘しているような食べ方をしている。
しかし、猫は賢い。猫は人間よりも順応する能力が高いかもしれない。いずれこの皿も攻略されてしまうのではないかと気を揉んでいる。