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利する相手かどうか見ています

 猫も9年も人間と生活していると、人間のように人の力量を推し量ってみたりもする。


 愛猫ニアは我が家の人間どもをよく観察している。

 例えば足音。

 当然、誰の足音であるかは簡単に聞き分けることができる。それに加えてその人物が仕事で出かけるのか、あるいは散歩かウォーキングかを推測し、仕事であればそのまま現状待機。そうでなければ気が向けば一緒に出掛けようとする。

 飼い主としては歩くことに集中したいウォーキングにニアが付いてきては非常に困る。のらりくらりと歩く散歩ならば一緒に歩くのも構わないが、ウォーキングについてくるのは困る。

 猫は気分屋だから10分ほど歩き続けると違うことがしたくなる。

 カエルや虫を追いかけたり、時には疲れて休みたくもなる。運動したい飼い主と休みたい猫との間に葛藤が生じる。

 ニアもそこそこバカではないらしく、家に自力で戻ることもできるのだが、せっかくなら人間を従えた方が、野良猫などに遭遇した時に都合がいい。人間がいることで負ける気がしない戦を展開できるからである。人間が一緒にいる時は従えることにしているから、わずか数分で「帰ろうニャ~」と喚かれると、飼い主の予定は大きく狂うことになる。

 それにしても、仕事か否か足音で判断できるニアの耳には、毎朝出かける私の足音はいかように聞こえているのだろうか。足取りが重い音がするんだろうな。重低音だな。


 この夏からニアは私の部屋に入り浸っている。

 何故だか分からないが、私のベッドの下に隠れている。

 ニアは雑種の猫の分際で部屋を持っている。なぜならニアが夜中に徘徊し家人を起こさないための措置である。引き戸やノブが簡単に開くドアではニアの努力次第でいかようにもなるという事をニアは知っている。そこで、ドアノブを回さなくては開けることができない八畳の洋間がニアの寝室になっている。高級な猫でもないくせに飼い主より広い部屋を寝室にしている生意気な奴。 

 生意気に部屋持ちの猫が、飼い主の狭い部屋に入り浸っている。

 ニアは人と同く何でも一人前の猫である。寝る場所も飼い主の部屋に来たら、飼い主のベッドに体を伸ばして寝る。しかも自分だけで。飼い主が添い寝をしようものなら、前足で「あっちに行け」と抵抗する。

 私も猫は好きになったが、一緒に寝る程はまだ心を許してはいない。「毛物けもの」と寝るのはどうもこうも、身の安全が不安だ。抜け毛も気になるし。


 

 ベッドでくつろぐニアを彼女の部屋に運ぶべく抱こうとすると、威嚇されベッドの下に逃げ込まれてしまうの繰り返しで、結局、同じ部屋に寝ることになってしまう。

 諦めて電気を消して眠りにつくと、ニアはベッドの下から這い出てきて、ベッドの傍らに横になっている。電気を点ければすぐさまベッド下へ逃げる。

 ついに私が観念して、ニアの寝床を部屋に置くことにした。以来、私の部屋で当然のように休むようになったニア。

 同室になった当初、ニアは一時間毎に私を起こした。首筋を舐め、起きないとなると噛んで起こす。びっくりして起きると、ゴロゴロと喉を鳴らしながら寝床へ戻る。そうして朝までの間に何度か舐めては起こすという行動を繰り返し、私は浅い眠りに苦しんだ。「鼾がうるさいニャ~」ってことなのか?なんなのか分からないが、噛まれるかもしれない恐怖で私はいつも眠りが浅い。


 しかし、同室になること二週間もすると、急に起こす頻度が減った。舐めたり噛んだりはしないが、夜中に枕元を徘徊し窓へと移動する。

 舐めて起こすのは午前四時半と決まった。その時間にニアは喉が渇くらしい。自室に水飲みに戻るため、私の部屋のドアを開ろと命じる。ニアが部屋に戻ったのを見届けて、猫部屋のドアを閉め私は二度寝をする。閉じ込められたニアは「腹も減っている!食い物を出せ!」と催促するが、「六時まで待て」と無視し二度寝の為に部屋に戻る。

 毎朝六時前後に起床する父がニアの朝食係なのだ。この家で一番早く起きる父に何年もニアは朝食を用意してもらっている。

 四時半に人間を起こしても、思い通りにならないのを知ったのか、ニアの起床時間は五時半になった。五時半になっても朝ごはんは出てこないという事が分かったのか、秋の彼岸頃から六時前後に起床するようになった。正確には六時少し前に起きて、毛繕いをし一階にいる父が起きてくるのを窺っているのだ。一階に父の足音がし始めると、ニアは盛大に私を起こしにかかる。「部屋の戸を開けろ!!」と大声で喚く。少し戸を開けてやると、ニアは大急ぎで台所へ行き、父に大声で朝食をねだっている。



 利する相手が起きてくるまで、自らも動かないという知恵がニアについてしまったようだ。

 朝は父にあれこれ命じているニアだが、夜は夕食係の私が用意しなければなかなか口をつけようとしない。

 朝食と夕食のメニューが少し違うせいもあるが、やはり同じ人間に出してもらわないといけないようだ。私の帰宅がニアの夕食時間にどうやっても遅れる時は、ニアも渋々、家族が出した夕食を摂るのだが、なかなか口にしないと聞けば、飼い主としては嬉しくなって、できるだけ早く帰ってあげたくなる。飼い主は嬉しくなってしまうのだが、本当は、夕食のメニューに猫がときめくおやつが付いているからで、私以外の者が夕食を用意するとそれが付いていないから、ニアは私から夕食を貰いたいだけなのかもしれないが・・・。

 利する者が用意したものと、そうでない者が用意した物の内容は違っていることが分かっているのだろう。家人には夕食の用意を催促したりしない。

 因みに、爪切り係の妹の姿が見えるとニアは部屋に籠り気配を消す。

 母に関してはドアの開け閉め係としての認識だが、母も面倒な時はニアの要求に応じないので、ニアはあまり母と妹には期待などしていないようである。話しかけてもニアは無視していることが多い。時々、ふざけて物陰から襲うことで、遊びに誘うことはあるようだが。

 荒っぽい言動の母と妹はニアを追い回すので、追いかけっこで遊びたい時は遊びを仕掛けている。

 猫は賢い。

 猫は利する相手をしっかり見極めている。


 愛猫と一晩中過ごしてはいるが、未だ同衾する仲には至っていない。

 一人前の場所を占領するニアの為に、大きいベッドに買い替えるか・・・。と思ったが、そもそも私は抜け毛が嫌なんだから、同じ布団じゃ寝られないわね。












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― 新着の感想 ―
[良い点] 猫の生態が面白い! [気になる点] よく観察してるなぁ。 いや、ニアちゃんではなく作者さまが。(笑) というか、なんだかんだで寝ていないのでは? [一言] 確実に懐かれてますね。 (手下と…
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