お恥ずかしながら・・・
大したことでもないけれど、いつまでもモヤモヤさせられてしまう出来事。
間違ってはいないのだろうけど、人に言われてなんだかモヤッとする言葉を、初対面の人からかけられた。
人の言葉尻をとらえて、何だかんだと言うつもりはないが、「モヤッ」とした気持ちはずっと抱えたままとなる。
定期的に通っている歯科でメンテナンスを受けてきた。
本当はもっと早くに受けるべきところだったかが、昨今の諸事情で定期検診を数か月ほど過ぎていた。
一年以上空いてしまったので、虫歯があるかと心配したが治療を要するものはなく、歯石を取ってもらうことになった。
その日、私を担当したのは、これまでに見たことがない新しい歯科衛生士のスタッフだった。
小柄でふくよかで親しみが持てる雰囲気の彼女は、最初に歯の状態を見てから磨き方のレクチャーをするという。この歯科では毎回、そうしているので何とも思っていなかったのだが、歯の状態をチエックしつつ、
「歯石がたくさんついていますよ」と、彼女が言う。
やはりそうだろうな・・・。ちゃんと磨いているつもりでも、いい加減になる日もあるし、昼間に磨けないこともあったし。それに検診もかなり遅れてしまったし。と、言い訳のような反省を頭に巡らせて口を開けていると、
「結構ついていますよ!」と彼女がもう一度言った。
その彼女の声色に、なんだか「モヤッ」とした。
なんで二度も言ったんだろう。しかも二度目の言い方は何なんだろう・・・。
一回言えば聞こえてるのに二度も何で言ったわけ?
それとも何だろう、私が恥ずかしがって身もだえでもするとでも思ったわけ?
そういうプレイの嗜好は持ち合わせてないわよ!とは言い返しはしなかったが、心の中はモヤモヤだ。
彼女の声色や言い方は人のあらを探すかのようで、己の優位性を押し出しているようであって、私はこの女性がとても苦手だなと思った。
歯石を取る前に、日ごろのブラッシングをチエックし、磨き方の指導があるのだが、私の磨き方は力が入りすぎていて、逆に良くないのだと彼女は言いった。
「このくらいの力で良いんです」と、彼女は軽くブラッシングしてくれる。確かにふわっとした感じでも、染色で浮き出た汚れは取れていく。定期健診の時、毎回、磨き方をレクチャーされるが、ついつい、いつの間にか我流になってしまうものである。
ガシガシと力を入れて磨く癖は歯にとって良くない。歯の表面を剥がし傷めるだけだと言われた。
「ここも剥がれてますよ。こうなると元には戻りません」と、ピシャリと彼女は断言した。
(ああ、永遠に戻すことができないのか・・・。なんてこったい)
と、私は思うより仕方がない。
経済的な余裕があれば、歯を全面的リニューアルすべく、白が眩いセラミックかインプラントにしてしまいたいが、幸か不幸か産まれながらの歯が健在だし、経済面からもなかなか踏み切れない。現実にある歯を大事にメンテネンスし続けるしかないと、ぼんやり思っていると、
「うちの主人もお恥ずかしながらそなんですよ。」と、突然、夫を持ち出してきて彼女は言った。
「そうなんですか・・・」と、言うよりほかにない私である。
「お恥ずかしながら、そうなんです」と、彼女はまた念を押した。
(お恥ずかしながらね・・・・。)
歯石除去をしてもらう時も、『お恥ずかしながら・・・』と言う言葉が浮かんではモヤモヤする私。
最近、私は些細なことを気にするようになってきたし、悪い癖だと気持ちをかき消そうとしたことろで、
「たしか××年生まれですよね。」
と、彼女が私の生まれた年号を尋ねるので頷くと、「干支は〇〇ですよね~」と、彼女はさらに掘り下げてきた。
(じぁ、逆に聞くけど、干支が〇〇でない××年生まれっているの?)と、言いたいところだけど口を開けていて言えないので頷くだけの私に、
「お恥ずかしながら、うちの主人も同じなんです。」彼女が声を弾ませる。
『お恥ずかしながらね・・・』
何がどう『お恥ずかしい』のか聞いてみたいものだけど、たぶん喧嘩になるような物言いを私はしそうなので、何も言えず、
『恥ずかしながら帰ってまいりました』