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残念な追放魔女を育成したら めちゃくちゃ懐かれてます  作者: 街のぶーらんじぇりー
第一章 フェレシュテフとファリド
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食人鬼

「フェレの訓練のためには、人間に向かって襲ってくるタイプの獲物がいいんだが、そう上手くはいかんかなあ」


「……昨日みたいに狼が一気にいっぱい来たら、刀では自信がない」


「あんなのが来たら半分引き受けるよ。今日のフェレは暴風戦法じゃないから近くに寄っても巻き込まれないし、互いに背中を守り合う戦闘ができるさ」


「……それは、いいこと?」


「決まってんじゃねえか」


 またまた桜色になるフェレ。


―――これはますます、ほめて伸ばさないとなあ。


 と、遠くからガサガサ葉音がする。見ると化け猪だ。不思議なことに化け猪はフェレやファリドに見向きもせず、森の外れに向かって一直線に突進している。


「……追う?」


「いや、あいつは……何かから逃げてるんだ」


「……化け猪が逃げる相手?」


ファリドは目を凝らして化け猪の来た方向を窺っている……と、


「最悪だ! 食人鬼だ!」


 食人鬼。人型の魔物だが頭部に短い角があり、身長は三メートルほど、恐るべき怪力で化け猪くらいなら素手で殺す。知性もあり、武器も使うし火も恐れない。まともな人間族の戦士が相手にするには分が悪い相手だ。


 普段の活動範囲は森の中央部にある魔窟の中に限定されているはずの魔物で、こんな外縁部で見かけるはずがない、というのが常識であったが。


「……逃げる?」


「そうしたいとこだが、たぶん逃してもらえないな」


 鬼の方は逃げ去った化け猪の代わりに、新たに見つけた二人の人間を新たな獲物と定めたようだ。悪いことに巨大な木の棍棒を持っている。あれに当たったら一撃で御陀仏だ。


「……勝てる?」


「生き残るには、勝つしかないな。フェレはとにかく絶対殴られないように逃げ回って、隙があったら足首だけを斬るんだ。他は狙わなくていい」


「……わかった」


 短い応答を交わす間に、食人鬼が巨体に似合わぬ速度で接近してくる。まずは柔らかくて美味そうなフェレから仕留めることにしたようだ。


 棍棒の一振りでブォォンという風鳴りが起こる。かなりの速度だが、フェレは余裕を持って後方に躱す。敵をはさんで反対側に回ったファリドはすかさず左足首に後方から一撃。鬼は怒りの咆哮を上げ、振り返りざまにファリドに襲いかからんとするが、今度はフェレがやはり後ろから左足首を狙う。


 数分の攻防後。


 食人鬼の両足首には多数の深い傷が付いていたが、鬼の動きは全く変わらない。そしてフェレが何回目かの攻撃を右足首に加えようとした瞬間、今までのパターンと変わって鬼が急に振り向き、棍棒を横薙ぎに見舞ってきた。


 これまで忠実にファリドの指示を守り、回避に徹してきたフェレが、不測の変化にあわて、思わず昨日まで得意としていた「打ち合い」で応じてしまった。


「フェレやめろ!」


 ファリドの絶叫に、フェレも我に返ったがもはや回避不能。反射的に目一杯の身体強化をかけ、シャムシールで棍棒を受けたが、魔剣でもない格安の曲刀が棍棒の質量に抗えるわけもない。鋭い音を立てて曲刀は折れ飛び、肩のあたりに棍棒を食らったフェレは数メートル先まで吹っ飛んだ。致命傷になったかどうかはわからないが、もはやまともに動けないことは確実だ。


「このヤロー!」


 ファリドは思い切り踏み込んで、散々切りつけた鬼の足首に、これまでに最強の斬撃を送り込むと、反転して一散に逃げ出した。


 うるさい人間族の一匹を戦闘不能に追い込んで高揚する食人鬼は、残る一匹……のファリドに向かって雄叫びをあげる。これまでは攻撃の方向と速度を見極めて間際で躱す小憎らしい戦術をとってきた人間族が、今度は一目散に逃げていく。


 鬼は必勝の確信を持って、小癪な人間族の男を追うべく、全力で大地を蹴った。


 と、バシっというような音がして、次いで何か重い物が地面に落ちるような音がした。ファリドが振り返ると食人鬼の巨体が前のめりに倒れている。


「うおおおっ!」


 ファリドはこの瞬間を逃さず、倒れた食人鬼に躍りかかり、首の後ろに馬乗りになって、深くシャムシールを突き刺した。さすがに強靭な鬼も、神経の要をやられてはもう動けず、しばらくピクピクと痙攣していたが、やがて静かになった。


「フェレっ!」


 ファリドは倒れているフェレに走り寄る。


「……う……っ。痛い……」


「生きてたか、よかった……」


「……ぜんぜん良くない……」


「鬼の棍棒をまともに食らったら普通はお陀仏だ。生きてるだけでも幸せと思え」


「……言われた通りに出来なかった……ごめん」


「フェレは悪くない。昨日の今日で戦い方を完全に変えられるやつなんていない。謝らないといけないのは俺の方だ。さすがにこんなとこに鬼が現れるのは、予想してなかった」


「……怖かった。死ぬってこういうことなのかと……」


「だろうな。悪いが、ちょっと身体に触るぞ」


「……つぅ~っ……」


「二の腕がきれいに折れてるから、治癒魔法でもかけてもらえばすぐ骨がくっつく。関節砕かれてたらそのまま冒険者引退だからな。フェレは運がいい」


「……良くないっ!」


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