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【完結】残念な追放魔女を育成したら めちゃくちゃ懐かれてます  作者: 街のぶーらんじぇりー
第三部 いざテーベへ
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よくある結末

 帝都の奪還は、あれよあれよという間であった。最後の頼みであった中央軍団が「天罰」を食らって壊滅してしまったのである。市内を警備していた兵士たちはあっさりと両手を上げ、ハディード派の支配を認めた。


 皇帝と皇兄率いる南方軍団は、数を減らした西方軍団と対峙している。状況は膠着しているが、帝都の情勢が伝われば、解決は時間の問題であろう。


 残る問題は、皇宮である。今やまさに裸の王様になりつつあるアスラン、そして宰相をはじめとする皇帝に逆らう側に立った高位貴族が、たてこもっているのだ。近衛部隊、そして貴族の私兵を合わせれば、兵力は二千以上。もはやハディード派の勝利は揺るがないが、ここまでくると勝つことだけ考えているわけにもいかない。そのあとの治世を考えて、できるだけ被害を少なく、かつ余分な禍根を残さないよう勝たないといけないのである。


「ファリド殿、ありがとう。ここまで私を導いてくれたこと、本当に深く感謝しています。ですが……」


「もうひと働き、しろということだな」


「ええ、申し訳ないのですが。もしここで皇宮に強攻すれば勝てます。ですが人的被害も大きく、宮殿とその周囲は焼き尽くされ、灰燼に帰すでしょう。その復興を考えると……」


 ハディードの姿勢はひたすら平身低頭、お願いドラえもんモードである。


 彼とてテーベに何の恩義もないファリドたちにこれ以上重たい荷物を背負わせることは本意ではない。彼自身ここまで、神輿役以外にはほぼ役に立っていない自覚もあるのだから。だが、優秀な内政官僚である彼には、これ以上余計な戦いをすることで、国力がどのくらい深刻なダメージを受けるのか、手に取るようにわかってしまう……もう一度だけ、すがりたくなってしまうのだ。


「まあ、たぶん無理に攻めなくても、熟した果実が勝手に落ちてくるんじゃないかと思うぞ」


「えっ? それは、どういうことです?」


「とりあえず、三日くらい皇宮を包囲して待ってみようや」


「???」


 さっぱり「軍師」の言うことが理解できないハディードは、首を傾げながらも従うのであった。彼も積極的に戦うのは、避けたかったのだから。


    ◇◇◇◇◇◇◇◇


 ハディードが待機を決めた、少し後のこと。


 皇宮のダイニングで、アスランはいらいらと晩餐をとっていた。眼の前にあるのは、仔羊のワイン煮込み……ハディードの軍に包囲され、もはや敗色濃厚となったこの期に及んでも、なお自分だけは贅沢をやめない彼である。分厚い肉塊に、まるで敵でもあるかのようにフォークを突き刺し、かぶりついてはワインをあおるその姿は、現実を受け入れられない哀れなものにしか見えなかった。


「殿下、もはや逆転勝利は望めません。かくなる上はハディード殿下に降り、せめて一命を全うできるように懇願するしか道はないでしょう」


「何だと? 第一皇子……最も序列の高いこの俺が、あの惰弱極まりない弟に頭を下げなければならないというのか、宰相?」


「今や、序列ははっきり逆転しております。アレニウス二世の後は、ハディード一世の御代となるでしょう」


「不愉快なことを言うなっ!」


 宰相に向かって酒杯が飛び、中の液体がべっちょりとその胸を濡らす。加害者を見つめ返したその顔は、皮肉そうな笑みに満ちていた。


「ああ、我が不覚は、このような不明の君を選んだことだった」


 嘆きの台詞を吐きつつ、その顔に歪んだ笑いを浮かべている。


「貴様っ! 俺をバカにするのかっ!!」


 そこに蔑みの意図を見て取ったアスランが、怒りに立ち上がった。いや、立ち上がろうとして果たせなかった。


 彼の背中に、短剣が深々と刺さっている。それは先ほどまで甲斐甲斐しく彼に酒食を供していた、侍女が為したことだ。


「くっ、ど、どうして……」


「殿下が生命ごいをなさらぬとおっしゃったら、我々だけでハディード様に降るしかないではありませんか。ですが、何か手土産がなければ、到底許されますまい」


「手土産、だと……」


「殿下の首などは、格好の土産になりましょうな」


 しゃあしゃあと言い放つ宰相に、アスランの眉が吊り上がる。


「こ、この不忠者めが……」


「いえいえ、私は帝国には忠誠を誓っておりますよ。ですが、殿下個人に自身を捧げた覚えは、まったくございませんね」


「くっ、ごぼっ……」


 愚かな皇子は、それ以上しゃべることができなかった。ワイン煮にかかったソースのような血を吐いて、彼はテーブルにうつ伏した。


    ◇◇◇◇◇◇◇◇


「……というわけでして。我々は度々お諌めしたのですが、アスラン様はお聞き入れにならず……兵士たちに脅され、心ならずもアスラン様に従わされておりました。ハディード殿下の英雄的な進撃でアスラン様にも隙が生まれ、決死の覚悟でようやく討ち取った次第にて」


 生首になったアスランを前に、滔々と自らの逆意なきことを訴える宰相。近衛部隊長を含む二十人ほどの高位貴族を従え、殊勝な言葉を吐きつつもハディードに圧をかけている。


「うむ、ご苦労でした。あなたたちのお陰で、皇宮を多くの血で汚さずに済んだこと、誠に重畳です。皇帝陛下もその功績を嘉されることでありましょう」


「ははっ、ありがたきお言葉!」


 予想通りの反応に、宰相の唇が醜く歪んだ。


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