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【完結】残念な追放魔女を育成したら めちゃくちゃ懐かれてます  作者: 街のぶーらんじぇりー
第三部 いざテーベへ
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恋は男を強くする?

「東方軍団の中にも、必ずアスラン派は手の者を潜り込ませているはずだ。軍団がハディードを神輿に担いだことで、直接生命を狙ってくる可能性が高い」


「……リドなら、誰が敵だかわかるのではないの?」


 ラピスラズリの瞳に、愛する男へ向ける絶対の信頼を浮かべて、問うフェレ。その一途な想いを快いものに感じながらも、ファリドは首を横に振る。


「さすがに俺は、そんな便利な眼を持っていないよ。どんな奴がアスランの手先かなんて、そいつが牙をむいてくるまでわからない。ひょっとして、今ハディードを護衛している奴らの中にも、敵がいるかも知れない」


「……それじゃハディード、いやリリが」


「リリも、それがわかっているから、素直にハディードのそばに戻ったのだと思うぞ」


 そう、闇仕事に生きる一族の若きエースであるリリは、好いた男と同じ時を過ごしたいがためだけに、彼のもとへ戻ったわけではない。ファリドが示唆する危険を百も承知であるからこそ、彼を守るために傍らに付き従っているのだ。


「……そっか。本気なんだもんね。ならオーランもハディードを……」


「それはできません。フェレ様とマルヤム様をお護りせよと、妹から固く命じられておりますゆえ」


 すました顔で拒むオーランに、フェレも小さなため息を吐いてあきらめる。護るべき対象からさりげなくファリドを抜いているところも、やはりリリであるのだが。


「いずれにしろ、これについては相手が手を出してこない限り、何もできない。初撃でハディードを傷つけられないよう、リリに期待するしかないな」


「……またあんなことを、しないといいけど」


 あんなこと、とはもちろん、温泉離宮でハディードを狙った矢を身をもって止め、瀕死の重傷を負った、そのことである。


「あのような状況になったら、あれはまた同じことをするでしょう。主を護るためならすべてを捨てよと、物心ついてより叩き込まれるのが我々一族ですから。そんな状況に陥らぬよう、護衛の中で本当に信頼できる者を見極めて、意を含めていますが……まだ二人しかおりませんね」


 突き放しているようでもやはり妹思いの兄である。オーランはきちんと、妹を守るためやるべきことをやっている。


「問題は奴らが、いつ動き出すか、だな……」


    ◇◇◇◇◇◇◇◇


 東方軍団三千騎が、西に向かって動き出した。ムザッハルによって鍛え抜かれた精鋭部隊が、いよいよ主の無念を雪ぐため、帝都に向かうのだ。


 その先頭に立つのが、新しき盟主ハディードと、力強い同盟者となったメフランギス。二人は二国の連携を見せつけるべく意識してくつわを並べ、兵士たちの歓呼に片手を上げて応えている。


「メフランギス殿下はご立派です。己の役割を理解され、それを完璧に果たしておられる……それに比べると私はとてもとても。たった今も、この先の戦いが恐ろしくて仕方ないのです。自分が殺されることも、自分の命令で人を殺してしまうことも」


 父皇帝が聞けば思わず失望のため息を漏らしてしまいそうな気弱な台詞を吐く若き皇子に、メフランギスはまるで物慣れぬ弟を見る姉のような、優しい眼を向けた。


「それでよろしいのです、ハディード殿下。人間にとって一番大事なのは、生きていくこと。ご自分の生命を第一に考えるのは、自然なことです。そして、部下たちの生命も同じように思いやれる殿下の優しさは、大国を統治される君主として、とても貴重なものだと、私は思います」


「ありがとうございます。そうおっしゃっていただけると、少しだけ頑張れる気がします。しかし……もっと強くならねばならないことも自覚しているのです」


 どこまでも謙虚な皇子の態度をほほえましく感じつつも、トップに立つ者としてはもうちょっと堂々と、自信をもって欲しいものだとメフランギスは思う。見上げる主が明確に進む道を示せばこそ、従う者たちはその力を十分に発揮できるのだから。


 そんな心配をする彼女がふと気づく。ハディードがふと後方を振り向き、その瞳が熱を帯びるのを。視線が向く先に見覚えのある若い女がいることを認めた彼女は、続けて言った。


「そうですね。殿下は思いやりのあるすばらしい君主になられると存じますが、テーベは武断のお国、率いるには強さも必要なのでしょうね」


「ええ」


「大丈夫です、男性はもともと強き生き物……そして君主たる者には過剰な武術や膂力は必要ありません、逆境に折れず民を励ませる、心の強さがあればよいのです。殿下がご自分をもっと強くと念じられるならば、心を鍛えられませ。そして、人の心が一番強くなるのは、愛する者を護ろうとするとき。殿下のようなお若い男性であれば、護りたい女性をつくることではないでしょうか」


 メフランギスの言葉に、ハディードが耳まで一気に紅く染まる。そしてもう一度想い人の方に向けられた視線に気づいたリリも娘らしく頬を染めた。


 これから国の運命を懸けた戦いが待っているとは思えない、ほほえましい風景であった。



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