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【完結】残念な追放魔女を育成したら めちゃくちゃ懐かれてます  作者: 街のぶーらんじぇりー
第三部 いざテーベへ
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攻略開始

「サフラー兄、申し訳なかった」


「詫びる暇があったら、早くあの愚かな息子から玉座を取り戻せ、アレニウス」


「うむ……そうするとしよう。さしあたっては、この拠点を取り戻さねばな」


 皇帝兄弟が、抱擁を交わす。もちろんこれは性的な意味を含まない、友情を確認するそれである。


「ハディードも、ずいぶん頑張ったようだな」


「いえ、私など」


「いや、ハディードの働きは、大したものであった。男子三日会わざれば刮目して見よという東国の金言があるが、まさにその通り。『軍師』と『女神』の助力を得、しかもこうして、砂漠の民をも傘下に収めた。武力に頼らず、周囲と協力関係を築くことで目的を達する……こやつなら新しきテーベの姿を描いてくれるやも知れぬ」


 ハディードが、大きく息を吐く。長子アスラン以外には冷たかったこの父が、テーベの伝統である武断的解決と異なる自分のやり方を認め賞賛してくれることへの感慨は、ひときわ大きいのだ。


「まあもっとも、今回のハディードは、好いた女のために頑張っているようだが」


「ほう、それは……あの気の強い娘だな」


「わかるのか?」


 意外そうな表情を浮かべる皇帝に向かって、その兄が無骨に笑う。


「ふふふ、わからいでか。どうもハディードは、尻に敷かれるのが好みのようだからな。だがアレニウス、そう言うということは……あの娘とハディードが添うことを、認めるということか? あれは闇世界の者だぞ」


「やむを得ないだろう。もはやまわりが見えぬほど夢中になっているようでな……許さぬなどと言えば、イスファハンに出奔しかねぬ勢いだ」


 貴き兄弟に仲良くいじられるハディードは、かしこまりつつもその耳を紅に染めている。その初々しさを好ましいものに見つつ、皇兄は傍らに控えるファリドたちの方を向いた。


「またずいぶん、活躍したようだな」


「ありがとうございます」


 変に謙遜はしないファリドである。実際のところ、彼とその家族の活躍は目覚ましいのだ。監禁された皇帝を救い出し、狙撃されたハディードを守り、オアシスの民を渇きから救って味方に付け……。


「これは、大変な借りになりそうだ。どんな謝礼も褒美も、釣り合う気がせぬ」


「我々は、テーベのために働いているわけではありません。我らが友、ハディードを助けんがため、動いているだけのことです。謝礼などもちろん求めません、リリとハディードのことを許していただき……そしてかねてよりのお約束を、履行していただければ」


 かねてよりの約束とはもちろん、みな承知している。期限が来たらファリド一家を平和裏に故国イスファハンに帰すこと……そしてその期限は、とうに過ぎている。


「欲のないことだな。どうだアレニウス、彼らの望みに添うてやれぬか?」


「是非もなかろう。儂らが止めようとしても、この者らがその気になれば、止めることなどできはせぬ。ここ何週間かで、それを思い知ったからな」


 皇帝の言葉に、ファリドが頬を緩める。これで、テーベ首脳陣は皆落とした。あとは唯一の障害……第一皇子アスランを叩き潰すだけである。振り返れば、仏頂面をデフォルトとするフェレも、目尻を優しく下げている。


「ありがとうございます。あとは確実に、陛下を皇都にお送りするだけです」


 そう口にしてから皇帝兄弟に向けた顔は、自信に満ちていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「諸君、儂の顔を覚えているだろうか!」


 不思議な褐色の浮遊カーペットに乗って、拠点の上から演説するのは、もちろん皇帝アレニウスである。


 空襲を恐れて兵舎に逃げ込んでいた兵士たちも、不思議な手段で空を飛ぶ男に害意がないらしいとようやく納得したのか、ぽつぽつと外に出て、その珍しい光景を眺め始める。


「誰だ? 偉そうなやつだが?」

「知らねえよ、俺たち末端の兵にとっては、上官の命令がすべてさ。それにしても……さっきのラクダといい、あの貴族といい、どういう業で浮いているのだろうな?」


 ぼんやりと空を見上げる兵の中から、その時驚きの声が上がる。


「いや、おい! あ、あれは……皇都のパレードで見たことがある。あのお方は、こ、皇帝陛下じゃないのか?」


「何だとっ! た、確かに! それに、隣にいらっしゃるのは、サフラー大将軍じゃないか……本物の皇帝陛下と、皇兄殿下だ!」


 皇帝の姿だけでは、兵たちに信じさせることが難しかっただろう。そもそも皇帝を見たことがある者自体がほとんどおらず、しかもその男は、怪しげな浮遊術など使っているのだ。


 だが、大将軍として勇名をほしいままにしてきた皇兄サフラーのことを知らぬのは、新兵だけだ。長年軍の頂点に君臨しつつも、末端の兵とも親しく交わる彼は、現役兵たちにも深く敬愛されている。その彼が一歩引いて仕える男は、皇帝その人以外にいないだろうと、見上げる兵は疑わない。すでに彼らは、空に向かって次々と敬礼を施している。


「いかにも、我はテーベ皇帝、アレニウスである。だが今は不肖の息子と奸臣に皇都を追われ、こうして兄将軍と皇子ハディードに支えられている」


「何だと?」「皇子や宰相が反逆したのか?」「そんなん聞いてねえぞ!」


 兵士たちの間に、ざわめきが広がる。皇都の異変は、彼らにまったく伝えられていなかったのだ。


「そして、いま諸君に命令を下している拠点の幹部どもは、反乱に与している!」



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