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【完結】残念な追放魔女を育成したら めちゃくちゃ懐かれてます  作者: 街のぶーらんじぇりー
第三部 いざテーベへ
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地下室

「よりによって、一番厄介な場所にご滞在というわけか。まあ、仕方ない」


 ボンボン貴族を氷の檻で締め上げ、皇帝のいる場所を吐かせたファリドが、ため息をつきつつつぶやく。威勢の良いことを叫んでいた豚貴族は生命の危険が自らに及んだと悟った瞬間、皇帝の居所だけでなくこちらが訊いてもいないアスラン派の裏事情までペラペラと唄いまくったのである。もっともその供述は、彼の生命を長からしめることには何も役に立たなかった……フェレとマルヤムが浴場を出た後で、オーランだけが静かに引き返し、そして手早く戻ってきたてのは、まあそういうことだ。


「ええ、地下の部屋へは秘密の仕掛けを解かねば入れません。そしてそもそも……仕掛けにたどり着くまでの警備が厳しすぎて、近づけないのでは?」


「秘密の仕掛けを解く方法ってのを、ハディードは知っているのか?」


「無論です。三男とはいえ一応、皇子ですので」


 少し口元を緩めて、ハディードが応じる。


「なら問題ない。室内の警備など何十人いようとフェレの敵ではないからな」


「……うん、頑張る」「私も頑張る!!」


 愛する男の信頼に、フェレが薄く微笑んで応えれば、マルヤムも負けじと宣言する。ラピスラズリの瞳と黄金の瞳を真っ直ぐに向けられたファリドは、まるで家族団らんを見守る父のような気分で目尻を下げた。これからあまたの敵兵を、闇に葬ろうとしているというのに。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「う〜ん。この目で見るのは初めてではありませんが……やはりフェレ殿の魔術には『恐るべき』という以外の言葉が見つかりません」


 ハディードが感嘆の声を漏らすのも、無理のないことだ。離宮本館の入口からここまで、二十人を超える警備の兵が配置されていたというのに……一度の抵抗も、いや誰何すら受けずして、目的地の広間にたどり着いたのだから。


 もちろんそれは、フェレのオリジナル魔術「真空」がその威力を発揮したゆえのことである。


 今や彼女は、狙った領域に限って正確に空気を排除し、その状態を保つことができる。その空間で一息吸ったら最後、酸欠を起こして意識はブラックアウトし、力なく崩れ落ちるしかないのだ。両横と上下を壁に囲まれた離宮の廊下は、彼女の魔術を活かすに、まさにおあつらえ向きの場所。曲がり角の向こうの空間から空気を抜いて、十ほど数えた後おもむろに踏み込めば……そこを警邏していたらしい兵士たちが、バタバタと倒れているという寸法である。


 そうやって無力化した兵たちには、しんがりを務めるオーランが静かに、しかし確実にとどめを刺していく……何しろ多勢に無勢なのだ、息を吹き返されて騒がれてはたまらない。フェレの繊細なメンタルと、マルヤムの情操教育を考えれば、できるだけ敵を殺したくないというのがファリドの思いではあるが……ここは家族の安全が何より優先だと、割り切るしかないのだ。


「ここです」


 ハディードが示す壁には、大きな肖像画が一枚しつらえられている。初代皇帝の絵姿だというが……その縁には豪華な象嵌の装飾が施されており、その底辺にひときわ大きな色違いの水晶が五つ、塡められている。彼がこともなげにその一つに手をかけると、赤みを帯びた水晶がポロリと外れた。続いて青い水晶を外して、先程まで赤い石が納まっていたスペースに填める。そして次は黄色の……五色の石を組み替えたハディードが絵の額を静かに押すと、それはゆっくりと動いて、地下へ繋がる階段がぽかりと口を開けた。


「なるほど、色の順番が符丁になっているわけか」


「はい。この先は限られた者しか許されぬ領域……ですがおそらく父だけではなく、父を監視し拘束している敵が、待ち構えているでしょう」


「皇帝陛下と敵が一緒にいることを考えると『真空』は使えないな。陛下が酸欠で脳障害でも起こしたら、何のために助けるんだかわからなくなるからな……だからフェレ、これを使ってくれ」


「……ん」


 渡された袋の中身を改めたフェレが、少し嬉しそうに微笑んで、小さくうなずいた。 


◇◇◇◇◇◇◇◇


「オーラン。中には、何人いそうだ?」


「標的の貴人を含めて、おそらく七人いる」


 地下室の奥、重厚なしつらいの扉を前に、一行は敵の戦力を測っている。魔族アフシンが不在の今、一番索敵で頼れるのは、暗殺慣れしたオーランになる。


「よし、ならばフェレの魔術で混乱している間に、オーランとリリで片付けられるな、手早く頼むぞ。皇帝を盾に取られたら負けだからな」


「うむ」「お任せを」


 まるで料理の下ごしらえでも頼むように気楽な調子でファリドが指示を出せば、フェレは静かにうなずき、リリとオーランも平然と承諾の返答を口にする。声のかからなかったマルヤムは少し不満そうに口をとがらせているが、さすがにここで文句を言うほど子供でもない。そしてこんな荒事には、もちろんハディードもお呼びではない。


「よし、行くぞ!」


 ファリドが、扉を蹴り開けた。


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