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【完結】残念な追放魔女を育成したら めちゃくちゃ懐かれてます  作者: 街のぶーらんじぇりー
第三部 いざテーベへ
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ハディードの決意

 暫く虚ろな目になっていたファリドが、一回大きく深呼吸をして、ハディードに向き直った。


「俺の大事な家族が口を揃えて、頑固なハディードを救えと言うんだ。仕方ないから力の及ぶ限り手助けをさせてもらう」


「う、嬉しいですが……本当にいいのですか?」


 公式には敵国の捕虜でしかないファリドを年長者として敬い、恭謙な態度で応えるハディードである。武断の国テーベにあってなお、こう慎ましやかに振舞えるところが、ファリド家女性陣から高い評価を受けるゆえんであろう。まあ、毎回持参するチョコレートの効果も、否定はできないのだが。


「あくまで、俺たちの力で出来る範囲だ、あまり期待しないでくれ。それで……ハディードは、アスランを排除して自ら皇位に就く覚悟があるのか?」


「え、こ、皇位……」


 「出来る範囲で」とかセコい予防線を張っておきながら、「皇位に就く覚悟は」とか言ってのけるファリドに、目を白黒するハディードである。それはまるで、ファリドたちが本気になれば帝位奪取も不可能ではないと言っているようで……いや実際、そう言っているのである。大言壮語するファリドを潤んだ眼で見つめるフェレも、それを当然のこととして受け入れている……限りなく教祖様と信者の関係に近い二人なのだから。


 確信に満ちた「女神」の表情にごくりとつばを飲み込んで、ハディードがようやく口を開く。


「もちろん。戦の才なきが故に皇位継承から距離をおいていましたが、私とて理想も経綸も持っています。皇帝になれるものならば、民をより幸福にすることを約束します」


「よし、俺たちはハディードに力を貸す。大丈夫、女神イシスがついているんだ、大船に乗ったつもりでいろ」


「は、はい……」


 コトの流れに呆然としているハディードに一つうなずいて、ファリドは愛する家族に茶色の視線を向ける。


「フェレには、これ以上人を殺めさせたくなかった。だがこうなっては仕方ない……この国の民を幸せにするために、腐った貴族どもは潰す。そのために、力を振るって欲しい」


「……うん。リドが命じるなら、それは必要で、正しいこと。リドがそうしろと言ったら、私は何万人でも殺せる」


 これは、フェレなりにデレているのだ。だが口にしている言葉は世界一凶悪で……唇の端に微笑を浮かべたファリドが、今度はマルヤムに語りかける。


「マルヤム。お前には血なまぐさいこととは無縁の、普通の女の子としての生活を送ってもらいたかった。だけどハディードを助けるためには、テーベの貴族や兵を何人も殺さないといけない。一緒に、やってくれるか?」


「うん、チョコの皇子様を助けてって言ったのは私、だから頑張る。大丈夫、父さんが思っているより、私は強いよ?」


「ああ、知ってるよ」


 オーランとリリが、少しばつの悪そうな顔をする。もちろん彼らがせっせとマルヤムに殺人技を仕込み、マルヤムが嬉々としてその腕を磨いていることなど、ファリドにはお見通しである。それでもその技を使わずに生きて欲しいというのが、父としての望みだったのだ。


「俺も、フェレ母さんも、お前を愛してる。だから、みんなで生き残るために、戦おう」


「うんっ!!」


 軍事大国テーベ全体を敵に回す深刻な決断とは裏腹の、やけに明るいマルヤムのレスポンスに、大人たちから微笑みが漏れた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「さて、とりあえずの作戦だが……ハディードがここでアスランに対抗して旗を上げたら、どのくらいの貴族がついてくる?」


「恥ずかしながら、三割いるかどうかです。しかもその大半は文官をなりわいとする貴族で、荒事に巻き込んでも戦力になりません」


 頼りなげな返答に小さくため息をつくファリドだが、ここまでは予想の範囲内である。内政官僚には圧倒的支持を受けるハディードであるが、テーベは武断の国……結局のところ武力を持つ貴族をいかに多く自陣営に引き入れるかが、権力争いのキモになるのだ。正攻法で勝ち目がないことは、最初からわかっていたことである。


「ならば戦略は一つしかない。失脚して恐らくどこかに監禁されているであろう皇帝陛下を救出するのだ。現皇帝を前面に立てて戦えば、今は勢いのあるアスランについている多くの貴族は仰ぐ旗を変えるか、日和見の中立に態度を変えるだろう。もちろんそうやって勝利を得た暁には、後継者はおのずとハディードに決まるだろう」


 ファリドの言葉に、深くうなずくハディード。自身に器量が足りないともとれる助言をも素直に受け入れる度量は、まさに王者にふさわしいもの。武断的伝統を旨とするテーベ帝室でなければ、必ず善き君主になれる素質を持っている青年なのだ。


「どこにおられるか、想像はつくか?」


「はい、宮殿内の官僚から様子を聞く限り、すでに王都にはおられないものと。貴人を軟禁するとすれば西部国境の砦か、大河を遡ったところにある離宮ではないかと考えるのですが」


 ハディードが冷静に答える。武力を持たないとはいえ文官や下級中級の役人にはシンパが多く、情報は豊富に持っているのだ。


「よし、一つ一つ、可能性を潰していくしかないな」


 ファリドが宣言すると、フェレが大きく一つ首肯した。



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