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【完結】残念な追放魔女を育成したら めちゃくちゃ懐かれてます  作者: 街のぶーらんじぇりー
第三部 いざテーベへ
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思い出の三都

 部族軍一万五千に加え、正規軍第三軍団の半数に当たる一万五千の大軍が、副都から西北方向、三都アズナに向けてゆっくりと進軍している。


「こうしてファリドと馬を並べて遠征する日が来るとはな」


「ええ、今の役目はやや不本意ですが、ミラード大隊長と並び立てることは光栄です」


 昔の関係性を懐かしみ、意識して部下だった頃の階級で呼ぶファリドに、陽焼けした貌をにいっと緩めてみせる、第三軍団長ミラード。二人ともこんな乱れた世でなかりせば、顕官に就くことなどありえなかった平民階級出身である。


「テーベ軍がモスルに向け転進したと言えど、本格的に戦端が開かれるには少し時間がかかるだろう。部族軍も三都に一旦駐留し、英気を養ってはどうかな」


「ええ、俺もそう考えていました。二日……いや三日ほど、羽を伸ばさせましょう」


 馬を駆り戦いに身を置くのは、部族の男たちが誇りとするところ。しかし王都から長駆三都までほぼ休まず行軍を続けてきたのだ。疲れも鬱憤も溜まっているだろう、これより先の労苦に備え、適度に発散させてやる必要がある……酒に、美食に、そして女に。


「ふむ、では正規軍は暫時三都郊外に滞陣し、入城は部族軍の四日後としよう」


 これも、大人の配慮である。一万五千の部族軍だけで、三都の酒場も娼館も、満員御礼となってしまうであろう。正規軍兵と鉢合わせなどして無用の争いを起こしてはならないのである。


「恐れ入ります。俺も部族軍と共に、先に三都入りさせてもらいます」


「三都は『女神』と出会った思い出の地であるそうじゃないか。付き合い始めの新鮮な気持ちに戻って、存分にイチャつくといい」


 かつての上官にイジられ、赤面するファリドであった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「……美味しい」


「うん、相変わらず美味いな」


「……リドの財布で食べてると思うと、二倍美味しい」


「それ、いつも言ってたよなあ」


 冒険者ギルド近くのこじゃれたカフェ風テラスで、ランチを共にする二人。羊のロースト特盛にガーリックトーストというがっつりメニューを、ラピスラズリの眼を細めながらぐいぐい平らげていくフェレと、口元に笑みを浮かべつつそれを優しく見守るファリド。


 そう、このテラスは、二人が出会った日に初めて一緒に食事をした店なのである。そして、今フェレががっついているメニューは、彼女があの日ファリドに奢らせたものと、まさに同じ料理なのだ。フェレの表情も、いつも安定の仏頂面が崩れて、へにゃりと緩んでいる。


 ミラードに勧められたからと言うわけではないが、彼らは二人が出会い、縁を育んだ思い出の場所をゆっくりと訪ね歩き始めていた。珍しくフェレが積極的に、そうすることを望んだのだ。


「……でもあの時より、今の方がもっと美味しい。だって……リドが私だけを、見てくれてる」


 近くで聞いている者がいれば砂糖を吐きそうなバカップルぶりだが、幸いなことに隣のテーブルは空席だ。ほっとするファリドだが、もちろんこの会話は「ゴルガーンの一族」であり、彼らを主と仰ぐオーランには、しっかり聞かれているだろう。


 闇仕事をなりわいとする一族の中でも特に天才と称される彼が自らの姿を風景に溶かす技術は、ファリドをも唸らせるものであるのだ。今日はもう一人の護衛であるリリに休暇を与えて二人で出掛けているのだが、そんな時には眼に見えずとも必ずオーランがどこかで見守ってくれているはずなのだ。あまりに率直に愛を告げるフェレの言葉に気恥ずかしさを覚え、思わずキョロキョロと周囲を気にするファリドの耳に、彼にだけ聞こえる程度の音量で、オーランの声が忍び込んでくる。


「いやはや、主たちの仲の良さ、いつものことながら羨ましいこと」


 面白がるようなその響きに眉をひん曲げようとした瞬間にフェレと視線が交差して、慌てて優しい表情をつくる。一方のフェレとて二人の会話をオーランが聞いていることなど承知しているはずだが、まったく気にする様子もなくこっぱずかしい台詞を吐けるのは、不思議な気がするファリドである。


「……リリは里の仲間に会うと言ってたけど、アフシンはどこに行ったんだろ?」


「フェレにも言わずに出掛けたのか……まあ爺さんが行先を隠そうと思ったら、オーラン達でも後を追えないんだ。ふらっと帰ってくるのを待とう」


 そう、この軍旅にも当然のようについてきた魔族アフシンは、三都に着くなり姿を消していた。そういえば副都を立ってここに向かう途中、時折彼が考え込む姿が気になっていたファリドである。


「まあ、万一にもアフシン殿が危ない目に遭うことはなかろうし……」


「……そうだね」


 身を隠す技術も、一対一の戦闘能力もオーランたちをはるかにしのぐアフシンなのだ、心配するのはかえって失礼というものだと、ファリドは割り切る。


「うん、俺達は俺達で楽しもう。飯を食ったら、どこに行こうか?」 


「……冒険者ギルドに、行きたい」


 フェレの答えはもちろん、ファリドの予想通りであったのだが。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 旦那の手料理ではないですが、旦那の奢りで食べるメシは美味いのでしょうね。 ソレが思い出のメニューならば尚の事って処ですかね(*´ω`*)
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