第3話。兄貴
「坊っちゃん、忘れ物はございませんか?
一度魔王城を出ると、もう簡単には戻ってこれませんよ」
意外と心配性なんだよな、セバスチャンは。
「聞いてますか?坊っちゃん。
それと1日一回必ず魔神様にお祈りするのですよ」
魔神とは俺達魔族の神だ。
魔族は色んな種族の集まりだが、全ての種族の神は魔神様だ。
こんな俺でも毎日お祈りしている。
「ああ、わかってるよ。セバスチャン」
荷物と言ってもリュックサック一つだ。
空間魔法の初級。【小物入れの魔法】で他の荷物を入れている。
俺の魔力なら小物入れとは言っても、ロッカー一つ分位の量が収納できる。意外と便利な魔法だ。
俺は基本的に初級の魔法ならなんでも使える。でも中級以上はほとんど使えない。
上の兄姉たちは上級魔法も当たり前に使える。
まあ、俺なんて次期魔王争いのライバルとすら思われてませんわ。
まあ、なるつもりは鼻くそ程もないけどね。
見送りのセバスチャンを引き連れて、魔王城の玄関ホールにやって来た。
まあ、家出じゃないんだから玄関から出発しようと思った訳だが、失敗した。
「ゾーマ」
会いたくない奴に出くわした。
俺の一つ上の兄貴のゲマ。魔王の12番目の子供だ。
「お前なにしてんの?こんな所で」
「そっちこそなんでここにいんの?出てった筈だろ」
一つ上の兄貴と仲が良い奴らなんてこの世に居るのだろうか?
うん。居ないね。
俺も散々いじめられた。
まあ、それなりにやり返したけどね。
こいつは俺と同じ位の能力だし、むしろこいつ以外の兄姉にやり返したら、俺なんて、骨すら残りませんわ。
「俺はこれから出発だよ」
「はっ、お前なんてすぐに諦めて親父に泣きつくだろうな」
「お前と一緒にするなよ」
「はっ!?俺はこの一年の報告に帰って来ただけだ」
「本当か~?」
「お前やるのか?」
「やってやるよ」
そこから小一時間、こいつと口喧嘩していたら、
兄貴のゲマは親父(魔王)に、俺はセバスチャンにしこたま怒られ、出発させられた。