894 指揮命令系統を構築
地球:202X年11月12日
火星:1年6月4日
~紗也華の視点~
あれから5分経った。そろそろかな?
『やぁ、お待たせー。どうしたの?皆も黙っちゃってさ。雑談はしても良かったのに。彩花と紗也華どうしたー?配信者だろー?そんなにコミュ障だったっけ?』
「光一さん。今は私、そんな気分になれないんですよ。だって……ぼたんさんは私の隣にいたんですよ?」
「彩花の言う通り。私も何か出来たんじゃないかとか色々と考えるのよ。雑談をする気分になれないわ」
『彩花も紗也華も気にするなって。まぁ笑える状況にないとは思うけどさ。しっかし本当に僕の弟は困ったヤツだなー!この暗い雰囲気を何とかしろよなー!』
「無茶を言うな!そんな高度なコミュニケーション能力があったらな。お笑い芸人にでもなっているわ!何かを言ったところで空気が読めないヤツになるじゃねーか!本当に愚かな妹だ」
『まぁ良いや。相手するだけ無駄だ』
「おいっ!」
『そんじゃ議論を続けるよー!千代に質問しても良いかなー?』
「はい!国王陛下!何でも質問してください!」
『ありがとー!僕って今、職務不能だから一切の権限がないのかな?』
「いえ、国王陛下。憲法で『国王は全てにおいて勝る』となっております。いかなる場合も国王陛下の権限は揺るぎません!」
『僕の言葉は絶対という認識であっている?あー理不尽な命令をするつもりはないよ』
「はい。ご認識の通りです」
『……それはそれで問題ない?心神喪失の場合とかさ?』
「いえ、むしろ簒奪……つまり王の地位を乗っ取られる事の方が問題です。もしも国王陛下の権限の行使に問題があったら……その時はその時です。国が崩壊するのではないでしょうか?」
『まぁねぇ……例外を作っちゃうと悪用されちゃうか。例えば僕の妻が権力争いを始めたり』
「そういう事です」
『分かった。ブリタニア勘違いしないでほしい。僕はブリタニアに王としての能力がないとか思っていないからね。そんな事を言ったらさ。僕なんてどうするの?反省点ばかりでさー。どうしようもない王っすよ?』
「そんな事はないわ!私には能力がないの。でもあなたは素晴らしい王よ!」
『ブリタニア、君の言う通りならこんな事にはなっていないんだよ。僕の反省点はブリタニアも指摘した通り。まぁ君のお父さんと一緒でね。一度失敗した人っていうのは反省するから強いんだよ。僕の家族で一番、王としての能力があるのはリアだと僕は思うよ。だってさ。リア女王だもん。分かってもらえるかな?』
「そう…ね。それじゃリアを大和王国の一時的な女王にするの?」
『それもさー。正直、悩んだんすよ。でも地球の事、特に日本の事をよく理解しているのはさ。日本人なんだよね。チョット待ってね……シャーロット聞こえるかなー?』
『はい。光一さん聞こえますよ。皆も聞こえているようです』
『という事は全員、僕のメールは読んでくれたのかな?』
『はい。全員、読みましたし、イブさんからも聞きました。ぼたんさんが元気になる事を切に願っています。お腹にいる赤ちゃんの無事もです。今はメールで指示された通りに全員、マンション1階のレストランにいます』
『そっか。メールにも書いたけどね。ブリタニアに王としての能力がないとは思っていないよ。皆、勘違いしないでほしい。よろしくね。ごめんよ。グループ通話だからさ。全員に意思を確認するのが困難なんだよね。イブ、アンケートよろしくね』
「分かったわ。私は病室にいる身体が通話に参加しているから、天界組の皆、違和感を覚えると思うけどよろしく……アンケート結果が出たわね。皆、光一さんの言葉を理解しているわ」
『イブと皆、ありがとう。ブリタニアとシャーロットにお願いがある。僕が不在の間、家族を守ってほしい。2人で協力してほしい。ブリタニアは病室をお願いしたい。シャーロットは天界組をお願いしたい。良いかな?』
「光一、了解よ。私に任せて!今度こそ守るわ!」
『私も承知しました。任せてください』
『2人共ありがとう。レーネにもお願いがあるんだ。シャーロットをサポートしてもらいたい。家族を守ってもらえるかな?』
『分かったわ。皆、よろしくね。シャーロットさんもよろしく』
『はい。レーネさん、よろしくお願いします!』
「光一、何でレーネとの3人じゃないの?」
『紗也華、それはね。ブリタニアとシャーロットを一時的に女王補佐官に任命したいから。王族から王を1人、女王補佐官を2人選びたかった。ブリタニアとシャーロットの主な任務は家族を守る事。これに専念してほしいから、ブリタニアを王には任命しない。ブリタニア、分かってもらえるかな?』
「分かるわ。光一、私は失敗したけど安心して任せて!」
『うん。お願いね』
「レーネも女王補佐官にすれば良いんじゃないの?」
『紗也華、船頭多くして船山に登るだよ。2人いれば十分。3人以上は多い。さっき僕は主な任務と言った。他にも任務があるんだ。それは王を支える事。3人寄れば文殊の知恵って言うでしょ?人工知能の国王補佐官はいるけど、王族からも選びたかったんだ』
「光一、指揮命令系統を構築するつもりね?」
『ブリタニア、話が早くて助かるよ。僕は今、こうして会話出来ている。しかし僕は職務不能。だからこうする。僕はあくまでも常にトップにいる。次が一時的な女王。その下が王族の女王補佐官。その下が人工知能の国王補佐官と国王代理の千代。王族の女王補佐官は王妃の意見を集約してほしい。ブリタニアは病室組を、シャーロットは天界組をお願い。よろしくね』
「分かったわ。私は王を支えるわね!」
『承知しました。頑張ります』
『さてさて。王についてだけど2人指名しようと思う。万が一、次に異世界や地球で僕が職務不能に陥って、会話が出来ない状態になる事を想定してね。異世界の一時的な王と地球の一時的な王を事前に指名しておくよ。まず、異世界はリアにお願いしたい』
『国王陛下。恐れながら私、リアは丁重にお断りします。私よりも相応しい人がおります』
『リア、参考までに聞かせてもらえるかな?それから無駄に堅苦しい表現をしなくて良いから』
『そう?それじゃ私よりも相応しい人を言うわ。紗也華よ。家族で一番、光一の思考に似ているのは紗也華。そして、大和王国の次期王のお母さん。だから……』
「リア、止めて。私は元はどこにでもいる普通の平民。私には無理。それにさっきから光一の意見に『何で?』って言っているでしょ?私は光一の考えを理解していないのよ」
『あら?あなた気付いていないと思っていたの?それを主張する為に敢えて分からないフリをしていたんでしょ?大丈夫よ。光一も元はどこにでもいる普通の平民だから』
「うっ……バレてたの?」
『当たり前じゃないの。光一、あなた地球の一時的な王は紗也華なんでしょ?』
『そうだけど、リア……』
ゲッ!やっぱり?私、女王とか嫌なんだけどなー?
『あー!面倒だからハッキリと言うわね。指揮命令系統は統一するべきなのよ。この際、憲法にでもしっかりと書いておきなさい。「初代国王が職務不能の場合には、紗也華が初代女王となり、初代国王の職務上の権限と義務を遂行する」とね。更に言うと光一は重要な事を忘れているわ!』
『リアさん、なんでしょうか?』
『私はリア女王よ。そんな私が宗主国の王になったらおかしいでしょうが!』
『いや、そうだけどさ。僕の家族で一番、王としての能力があるのはリアだと僕は思うよ』
『そんなものは関係ないのよ!今回、利益相反だっけ?それで問題になったんでしょ?私は将来の事まで考えて言っているの!私の子どもはリア王国の女王になるわ。ブリタニアの子どもはリーベ王国の王になる。他の王妃も同じ。子どもが他国の王なのに大和王国の王になるのはマズイ』
『私、めいです。横から失礼してもよろしいかしら?』
『めい?どうかした?』
『はい。光一さん。お父様が企業グループの経営者なので時々、仕事について耳に入ってくるのです。リアさんのご指摘は会社で言う、利益相反取引ですね?つまり、経営者が自分または第三者のために株式会社と取引をしようとする事です。会社法では取締役会での事前承認が必要です』
『えーっと……?』
『子どもが困っていたら助けたくもなるものです。自国の利益を犠牲にして、子どもが王をしている国の利益を図る。違法ではないかもしれませんが、あまりよろしくありませんね。仮にそんな事はしていないつもりでも、国民から疑われる恐れがあります』
『あのー。それを言ったら僕が王を続けるのってマズくない?』
『光一は良いのよ。あなたの国だし、世界中の宗主国になり、世界各国に様々な支援をした実績があるから。世界中の人々から光一は尊敬されているわ。神様でもある。それに私達、全ての子どもの親でもある。そうでしょ?』
『まぁリア、そうだね』
『一方で私達はそうじゃない。でも紗也華は子どもが大和王国の王になる。国民も納得しやすいのよ。自分の国の王の母親ならね』
「でもリア、私の2人目以降の子どもが他国の王になるかもしれないじゃないの?」
『だとしても私達よりはマシ。少なくともリア女王である私はあり得ない。ブリタニアは第一王妃だけど……リーベ王国出身だし、子どもをリーベ王国の国王にするんでしょ?』
「そうよ。光一、私は祖国を愛しているわ。だから駄目。もしも仮に紗也華の子どもを大和王国の次期王にせず、私の子どもが良いと言われても困るわ。悪いけど祖国最優先。ハミルトンと初音との子どもと結婚させると決まっているの。今回、私は地球だから素直に女王になった。もしも、私達の世界なら悩んだわね」
『失礼します。私、シャーロットではなく、リアさんが女王補佐官になるべきだと考えます。リアさん、私は聖女ですので「リア女王だから」というのはなしですよ?天界組はリアさんとレーネさんでお願いします。もちろん、私も協力します。リアさん、紗也華さんを支えてあげてください』
「その前に光一に質問。あなたはどうして私を選んだの?」
『今のところは、紗也華の子どもを大和王国の次期国王にする予定でいる。だから、母親である紗也華には王の立場を経験してもらおうと思った……というのもある。後は病室で僕の隣にいるから。やりたくないのは分かる。面倒なのも分かる。だけど頼むよ』
「はぁ……分かった。イブ、アンケートをお願い。私が女王になる事に賛成か反対かでお願いする」
「紗也華さん、分かったわ」
「病室の皆は悪いけど、挙手でお願い。言っておくけどね?私としては反対してくれた方が嬉しいんだからね!それじゃ賛成なら手を挙げて……あっそうですか。ありがとう」
全員、賛成かよ!チクショー!
「紗也華さん、アンケート結果が出たわ。全員、賛成よ」
「……あっそうですか。病室側も全員が賛成だったんだけどさ……嬉しくない!光一、女王補佐官について意見がある」
こうなったら……アイツも巻き込んでやろーっと!
『んー?なにかなー?』
「シャーロットの提案を採用して、シャーロットの代わりにリアを女王補佐官にしたいの。理由はレーネも娘の方が連携しやすいと思うから」
『あー。確かにそれもそうだねー。リア、よろしくね』
『いーやーだー!』
『リ~ア?そういう事を言わないの』
「おいっ!コラー!私を女王にしておいて文句を言うな!それじゃイブ、アンケートで決めよう。リア以外が全員賛成なら決定ね」
「了解よ」
『ちょっ!待て!』
「病室の皆、賛成なら手を挙げてー!……ありがとう!こっちは全員賛成よー!」
『なにー!?』
「アンケート結果が出たわ。全員、賛成よ。おめでとう!」
『何もめでたくない!嬉しくないんだからね!』
「ツンデレですか?」
『彩花、違うわっ!』
「もー!リア、うるさい!私と一緒に女王補佐官やりなさい!良いわね!」
『……はぁ、分かったわ』
『そんじゃ、そういう事だから。千代よろしくね。この会議での決定を国王命令とする』
「国王陛下、承知しました!」
『さて、紗也華。最初の仕事は何か分かるかね?』
「イブ、あなたを国王補佐官に任命するわ」
「女王陛下、承知しました」
「ナビィとエイド、病室に来てもらえる?」
『ナビィ、りょうかーい!』
『エイドもー!』
「……来たわよ?」
「エイドに何の用?」
「イブ、のぞみのデータセンター建設計画の立案をお願い。ナビィとエイドはその計画の実行をお願い。ナビィだけでも可能かもしれないけど、協力して進めて」
「紗也華さん、分かったわ」
「ナビィも分かった」
「エイドも了解!」
「計画を立案したからナビィさん、頭を近付けてもらえる?」
「らじゃー!……ほうほう。ふむふむ。りょうかーい!」
「……エイドもりょうかーい!行ってくるー!」
「ナビィも行ってくるわ!」
「光一、これで良い?」
『良いよー。生命神さん、まだー?』
『……治療なら終わってる。この世界の生命神ちゃんは帰ったよ。正直、2人がいて良かったー。本当に大変だったんだからね?』
『そりゃ……あの様子を見れば分かるよ。それで問題はあるの?』
『母子ともに何も問題ないよ。今だから言えるけど正直、僕だけなら子どもは助かっていなかった』
『そっか。生命神さん、本当にありがとう』
『良いんだよ』
『僕はチョット休憩と、お礼のメールを送りたい。だから紗也華、しばらく頼んだ』
「分かったわ。生命神さん、本当の事を言って。ぼたんと子どもは問題ないの?」
『本当に何も問題ないよ。この世界の生命神ちゃん2人は本当に優秀だね。安心してよ。傷跡とか一切ないから。ただまぁ……意識が戻った時に心配だから様子を見ているんだ。そろそろだと思うんだけどなー』
「それならとりあえずは良かったわ。代表して私からお礼を言わせて。生命神さん、ありがとう」
『良いの、良いのー』
「あっ!しばらくは1人で歩けないとか?」
『うーん?大丈夫だと思うよ。光一くんの時と違って神力を使いまくったからねー』
「そ、そうなんだ」
『そりゃそうだよ。お腹に子どもがいるんだからさ』
「そっか。イブ、大統領代行としての意見を聞きたいんだけど……今後の対応はどうする?具体的には公表するかどうか」
「……大統領の意見を聞いてから判断したいわ」
「分かった。生命神さんに専門家として意見を聞きたいの。今後の治療方針はどうする?」
『あーそれね。僕の部下が1週間……11月19日の金曜日、昼の12時まで体内にいるよ。そして危険な状態に陥るのを抑える。もしかしたら金曜日に近くなると効果が薄くなるかもしれないけど、その時は僕が対処するから大丈夫。薬の服用は止めてほしい。僕の部下が働くのに邪魔になるからさ』
「分かったわ」
『薬よりは効果があるとは言え、限界がある。やり過ぎるのも危険だからね。泣いたら危険だと思ってよ。すぐに僕か医師を呼んでほしい。間に合いそうになければ睡眠魔法を使い、僕を呼んで。そうだねぇ……毎日、医師に診察してもらうかは、君たちに任せる』
「了解よ」
「紗也華さん、私は心配だから毎日、診察が良いと思う。土日は大和王国の医療スタッフを呼びましょう。今日はまだ美香さんがいると良いんだけど……いなければ月曜日にお願いしようと思うわ」
「イブさんは診察、出来ないんですか?」
「彩花さん……それが出来ていたら私は失敗していないわ。私の性格では駄目みたいね」
「失礼しました」
「分かった。女王として、私も毎日、診察するのが良いと思う。しばらくはそれで様子を見るという事で……」
『紗也華さん!意識が戻るよ!』
おー!ぼたんは大丈夫かな?心配だなぁ。





